2011年8月21日日曜日

論理階型とマインドの理論


 個人的にはコーチングやファシリテーションをはじめ、様々な場面で活用しているわけですが、今日は短期・戦略・システム療法における根幹でもあるベイトソンの「論理階型とマインドの理論」について書いておきましょう。 


論理階型と精神(マインド)の理論

 非線形かつ複雑なヒトの心の仕組みを、言葉や記号で記述された単純なモデルで説明するのは、そもそも不可能だと思います。


 それでも、心がどのように動作するのか?について、認識論的なモデルが無いと、

  • 仕事や日常生活における何かに応用する
  • それが機能する理由を自分で理解、納得する
  • 自分のアイディアを他の人と共有する
といったことが難しく、一歩も前に進めない状態になってしまいます。


 そのようにわけで、それが多少ファンタジーのような仮説だったとしても、何らかのモデル、欲を言えば実践で使えるモデルが必要だという結論に至ります。
 そこで今日取り上げるのが、人類学者、哲学者であるグレゴリー・ベイトソンの精神(マインド)の理論、そして、その元になっている論理階型の理論(Theory of Logical Types)というわけです。


 個人的には、このモデルを
  • IT分野のオブジェクト指向分析を行う時の前提にある人の認識の理論
  • プロジェクトマネジメントにおける人と人とのコミュニケーションの背景となる理論
  • 問題解決を志向したコーチングやファシリテーションの背景となる理論。
  • 人財育成や教育カリキュラム作成で活用している理論
  • その他
というところでフレームワークのひとつとして活用しており、効果を実感しているかなり優れた理論だと考えています。 


論理階型の例を交えた定義

ここで、論理階型の理論について少し考えてみましょう。

 ベイトソンのマインドの理論は、元々英国の哲学者であるバートランド・ラッセル[1]、アルフレッド・ノース・ホワイト・ヘッド[2]の共著である「プリンキピア・マティマティカ」にある集合論としての型理論( Theory of Types)に基づいています。   


マインドの理論では、主に
  • 外的世界を観察して認識主体の内的表象に投影される要素であるメンバーが、集合論的クラスに階層を伴ってどのように整理されるのか? 
  • 表象におけるどのメンバー、あるいはどのクラスに注意を向けるかによって、認識主体の内側に異なるレベルの意識が生成される
ことについて述べられています。


具体的には、論理
)
階型
の例を交えた定義についてベイトソンの著書「精神と自然」の中に以下の記述があります。[3]
  1. The name is not the thing named but is of different logical type, higher than the thing named.名前は名前を付けられたモノそのものではなく、名前を付けられたモノとは別の上位の論理階型にある。
  2. The class is of different logical type, higher than that of its members. (集合論の)クラスは、そのメンバーより上位の論理階型にある。(クラス自身がそのメンバーになることは決してないということが集合論上の約束。)
  3. The injunctions issues by, or control emanating from, the bias of the house thermostat is of higher logical type than the control issued by the thermometer.サーモスタットのバイアスから発せられる制御命令は、温度計による制御命令より上位の論理階型にある。
  4. The word “tumbleweed” is of the same logical type as “bush” or “tree.” It is not the name of a species or genus of plants; rather, it is the name of a class of plants whose members share a particular style of growth and dissemination. 
  5. 「回転草」という言葉は、「藪」や「木」と同じ論理階型にある。これは、種や属の名前ではなく、共通の成長方法や繁殖方法といったメンバーを持つクラスの名前である。
  6. “Acceleration” is of a higher logical type than “velocity.” 「加速度」は「速度」より上位の論理階型にある。
例えば、上の1.について考えると個人的には「ペンは剣より強し」という諺を思い出すわけですが、認識主体の表象には
  • 外的に存在する物理的な実態の投影
  • それに貼られた言葉のラベル
の両方が存在しており、物理的な実態の投影された要素に対して言葉のラベルが行われ、KJ法のような認識主体による主観的なグルーピングを経てより高次の論理階型に抽象的な概念が構築されることが分かります。(図1はこのイメージ) 余談ですがこれによりデカルトの心身二元論に陥ることなく身体の関係性が情報のやり取りに還元されて表されることになります。

(図1)

 余談として、認識主体が自らの注意(Attention)を論理階型のどの階層に向けるのかで、生成される意識が異なることを理論的な拠り所として、短期・戦略療法をベースとしたコーチングの質問が組み立てられているわけですが、、これは後日、別の記事で説明することにします。


論理階型の上位が下位に、下位が上位に与える影響

 ベイトソンの論理階型において、上位の階型には、現在までの経験から帰納的に構築された言語/記号によって構築された、普段は意識に上っていない複数階層の枠組み(フレーム)が構築されており、このフレームが文脈、状況に応じて、演繹的に身体にフィードバックされ、身体反応を引き起こすと考えられます

ここで、論理階型において、認識主体の認識としての上位の要素が下位の要素に、反対に、下位の要素が上位の要素に与える影響について考えみましょう。

 ディルツ、エプスタインの著作に以下の記述が見つかります。 
 “In our brain structure, language, and perceptual systems there are natural hierarchies or levels of experiences. The effect of each level is to organize and control the information on the level below it. Changing something on an upper level would necessarily change things on the lower levels; changing something on a lower level could but would not necessarily affect the upper levels.” (Dilts, Epstein, Dilts, 1991, p. 26,).[4]
 脳の構造、言語および知覚システムにおいて、必然的な階層、もしくは経験のレベルが存在している。 それぞれのレベルは、(上位レベルによって)下位レベルにある情報が秩序付けられるもしくは制御されるように効果を発揮する。 つまり、上位レベルの変更は、必然的に下位レベルの変更を伴う。 しかし、下位レベルの変更が必ずしも上位レベルに影響を与えるとは限らない。
  “Logical Levels: an internal hierarchy in which each level is progressively more psychologically encompassing and impactful” (1990: p.217).[5]
 論理レベルは、内的な階層(ひとつのシステムの中の階層)であり、それぞれのレベルは(踏み上がるほどに)、より心理的に広範囲に影響を及ぼす。(但し、ここでは論理レベル≒論理階型として考えている) 
“Logical typing occurs where there is a discontinuity (as opposed to a continuity, as with the hierarchies) between levels of classification. This kind of discontinuity is exemplified:[6]

  1. in mathematic, by the restriction that a class cannot be a member of itself nor can one of the members be the class.
  2. in logic, by the solution to the classic logical paradox, ‘This statement is false.’ (If the statement is true, it is false, and if it is false, then it is true, and so on.) The actual truth value of the statement is of a different logical type than the statement itself.
  3. in behavior, by the fact that the reinforcement rules for exploration in animals is of a completely different nature than those for the process of testing that occurs in the act of exploration.” (1983: p.24).[6]
論理階型のプロセスには、分類の等級の間で切れ目が存在する。これは切れ目なく連続しているような階層とは対極にある。この種の切れ目は以下に例示される。 

  1.  数学において、クラスはそれ自身のメンバーになることは出来ない、またメンバーがそれ自身のクラスになることは出来ないという制限がある。 
2. 論理において、「この声明文は嘘である」(もし、この声明文の内容が本当ならば、これを説明した文章は嘘となる、もし、この声明文の内容が嘘当ならば、これを説明した文章は本当となる。つまり、声明文それ自身とその真偽は別の論理階型に存在する。) 
3. 行動において、動物行う、探求のルールによって強化された事実は、探求の行動によって起こる試行するプロセス、と完全に異なる性質を持っている。 
“The informational effects between levels and types is called feedback and is probably the major distinguishing feature of cybernetic systems.” (1983: 39)[6]論理階梯と論理階型の間でやり取りされる情報の効果をフィードバックと呼んでおり、おそらくこれがサイバネティクなシステムを他のシステムから区別する代表的な特徴である。(参考 図2)
 図2
  “Differences of the same or different logical type interacting at different levels (hierarchical or logical respectively) will result in the modulation of the difference on the lower level.” (1983: 49)[6]
 同一論理階型内、もしくは別の論理階型同士で、何らかの情報のやり取りが行われると、下位のレベルにおける変調が行われる結果になる
 実際のコーチングやファシリテーションの場面でも、認識が大きく変化するようなウォツラィックの言う二次的変化のレベル[7]を志向したコーチングやファシリテーションでは、基本的にマインドにある上位の認識が下位の認識対するメタ・メッセージになると考えて、ベイトソンのダブル・バインド仮説と併せて質問を行い認識の中にある、認識の枠組みであるフレームを調整していくような流れになります。このレベルになるとほとんど禅なのですが、詳細はまた後日書くことにします。


文献
[2] http://ja.wikipedia.org/wiki/アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド
[3] 佐藤良明訳『精神と自然――生きた世界の認識論』(思索社, 1982年/改訂版, 2001年/改訂版普及版, 2006年)
[4]Todd Epstein & Dilts, Robert, Tools For Dreamers: Strategies of Creativity and the Structure of Innovation, Meta Publications, Capitola, CA, 1991.
[5]Hallbom, Tim & Smith, Suzi & Dilts, Robert, Beliefs: Pathways to Health & Well-Being, Metamorphous Press, Portland, OR, 1990.
[6]Dilts, Robert, Roots of Neuro-Linguistic Programming, Meta Publications, Capitola, CA, 1983.
[7]http://en.wikipedia.org/wiki/Paul_Watzlawick
[8]http://en.wikipedia.org/wiki/Second-order_cybernetics(参考)

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