2011年8月25日木曜日

一般意味論の構造微分について

 今日は一般意味論の構造微分(Structural Differential) について書いておきましょう。 これは一般意味論で定義されている人が知覚から情報を取り入れ、言語を使いながら物事に対する認識をどのように抽象化していっているのか? そのプロセスについての仮説です。 

 最新の認知科学と比較するとこの仮説が合致しない部分もありますが、コーチングやファシリテーションの場面では非常に役だっていることもあるため、今日はこの概念について書いておくことにします。 

認知スキーマがつくられるプロセスとしての構造微分


 Wikipediaの「一般意味論」によれば、外的世界の出来事を末梢神経から認識主体に取り込み、抽象化を伴った情報処理を行うモデルとして構造微分(Structural Differential)モデルが提唱されています。 (図1)

一般意味論では抽象の段階に関する考え方を「構造微分 structural differential」と呼び、1)無限に変化する「世界」から、2)感覚器官によって把握された外界の似姿、3)「外界」として体験された事柄についての言語的記述、4)そうした言語的記述についての記述、というように当初の情報が段階的に縮退されていくことを指摘した。現在では認知心理学・認知科学的研究によりそうした縮退の様子が把握されているが、「元の世界についての認識」が、言語的に表現された「世界」についての認識へと縮退的にすり替えられていかざるという人間の認識能力の限界、そのことを明確に指摘した点に一般意味論の決定的な重要性がある。[1]

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   構造微分のモデルでは、外的な世界について、感覚器官によって把握された一次的な経験(感覚器によって把握された外界の似姿)が存在し、それを、「外界」として体験された言語的記述として、コトバによって記述された経験が存在しているモデルとなります。このコトバ、記号、シンボルを使ってその後推論を繰り返します。 

 また、コトバ、記号、シンボルは、感覚器官によって把握された外界の似姿に、言語もしくは意味としてフィードバックが行われます。一般意味論では、前者を神経言語フィードバック(Neuro-Linguistic Feedback) 後者を神経意味フィードバック(Neuro-Semantic Feedback)と呼んでおり、言語、記号、シンボル操作による推論が一次的な表象に影響を及ぼすモデルが示されています。[2] 


 これを簡単に言うと、「言葉」の語感から何かの感覚が生まれるのを感じたり、推論で思考することで、認識主体にとって何らかの意味が生まれたりすることを示しています。簡単な実験として、じゅうじゅうと音を立てて席に運ばれてきた焼肉定食をまじまじと眺めながら、あえて「冷たい」と言ってみると体に独特の感じが現れてくるでしょう。

認知のスキーマについて考える

  次に、一般意味論の構造微分のモデルに対してスキーマ療法のスキーマを重ねて考えることにします。 [3]  スキーマ療法は認知行動療法をルーツの一つとしており、さらに認知行動療法はその創始者のアルバート・エリスにより一般意味論の影響を受けていることが語られています。[4] (図2)

  スキーマは、青写真として経験(感覚器官によって把握された外界の似姿)に挿入され、個人が経験を解釈し、反応する助けを行います。認知心理学では、スキーマは、個人の思考、行動をガイドする抽象的な設計図と述べられています。[5]

  また、スキーマは、当該コンテクストにおける解釈、反応を生みだす、人工知能で言われているフレームと同等考えることも可能です。

 ここでのスキーマは基本的に認知に関するスキーマとしていますが、これを認知言語学のイメージ・スキーマ、あるいは身体図式(Body Schema)と同等であると考えると認知系と身体系の両方がシステム的にカップリングされて動作する認知および行動のスキーマとして考えることができます。


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 スキーマは通常、身体化され意識下で動作していると考えられます。 また、ここではこのスキーマは抽象度の異なる幾つかのスキーマが入れ子構造になっているとします。

 ここでは無限に変化する「世界」(外的世界)において何らかの出来事が発生すると、認識主体はその出来事を五感により知覚し意識下から表象が立ち上がってきます。 その後、当該コンテクストで動作するスキーマにより、半自動的に認知の解釈、意味付け、そして反応が引き出されると考えます。

 特にスキーマ療法ではこのスキーマを意識に上げ、スキーマを修正していくことで、当該コンテクストにおける解釈、反応を生みだす元となるスキーマについての認知の歪を修正することが可能になると考えられています。 

 一般意味論の構造微分のモデルに従えば、自己再帰的意識を使い、あるスキーマについてのスキーマという具合に再帰を繰り返すことで抽象度が上がっていくことが指摘されています。 

 グレゴリー・ベイトソンのマインドの理論によれば、経験にはレベルが存在し、上位の論理レベルにある経験が下位にある経験により大きな影響を与えることが指摘されています。[6] そのため、一般意味論の構造微分のモデルに対応付けたスキーマについてもより抽象的なレベルのスキーマが抽象度の低い下位のスキーマにより大きな影響を与えると考えられます。 

 したがって、抽象度の低いスキーマから抽象度の高いスキーマを見つけ、このスキーマをリフレーミングなどの技法を使い修正した後、一般意味論の神経言語フィードバック、もしくは神経意味フィードバックの原則により、身体化(形式知を暗黙知に戻る)され、当初のスキーマを変更することが出来ると考えられます。

 これをITのオブジェクト指向開発のアナロジーで説明すると、当該コンテクストにおける経験は、開発環境にある抽象度の高い、スーパー・クラス、あるいはクラスを使い、当該コンテクストに則したパラメータを代入して経験としてのインスタンスを生成することに似ているように思います。

 この場合、インスタンスを変更するには、そのスキーマとなるクラス、もしくはスーパー・クラスを変更した後、当該コンテクストにおけるパラメータを再入力してインスタンスを再作成する必要があることに似ていると考えます。

スキーマの構造について考える

 スキーマを意識に上げることは、定性的な感覚を含んだアナログ情報をデジタル情報のコトバ、記号、シンボルに変換することであると考えられます。

 したがって、スキーマを意識化することで、一次的経験に対して、この経験にインデックスとして設定された、コトバ、記号、シンボルとして機能します。 また、逆にこのコトバ、記号、シンボルを操作した後、身体化することで、元の一次経験におけるスキーマの変更が可能になると考えられます。

 また、具体的なスキーマの構造(仮説)について別途説明することにします。

文献

[2] Korzybski, Alfred (1958). Science and sanity: An introduction to non-Aristotelian systems and general semantics. Lakeville, Conn.: International Non-Aristotelian Library Pub. Corp.. p. xlvii.ISBN 0937298018.
[5] Stober ,Dianne ; Grant ,Anthony (2006) . Evidence Based Coaching Handbook: Putting Best Practices to Work for Your Clients , Wiley . ISBN-10: 0471720860 .
[6] http://www.narberthpa.com/Bale/lsbale_dop/gbtom_patp.pdf


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