2011年10月9日日曜日

対立の構造(その2)

今日は、昨日の続きとして「対立の構造(その2)」と題して少し書いておきましょう。


 もっとも、構造といってしまうとどうしても構造主義的な堅固な感じのそれを想像してしまうのですが、「対立」は単に物理空間におけるリソースの取り合いだけではなく、コンテクストや認識の相互作用も関係しているため、ここでは構造ではなく、パターンとしています。

ダブル・バインドの復習

さて、昨日は、対立が起こっている時、一旦、認識の抽象度を下げることで地に足を付け、物理的なレベルでリソースの取り合いが行われていないかどうかを確認することについて書きました。

それで、今日は、こういった物理空間とも関連する、人の認識におけるジレンマやパラドクスの特殊な形式としてのベイトソンのダブル・バインドの条件から書くことにします。

 尚、ダブル・バインドは基本的には個人の中で起こることを想定して構想されましたが、グループにも適用可能なことが示されています。[1]

 さて、ダブル・バインドを引き起こす条件について考えてみましょう。


1.ふたりあるいはそれ以上の人間がコミュニケーションのコンテクストに存在。

2.犠牲者は、繰返される経験の中で、ダブル・バインド構造に対する構えが形成される。

3.
 犠牲者に対して、第一次禁止の命令が行われる。

    a.「これをすると、お前を罰する」 もしくは、
    b. 「これをしないと、お前を罰する」 という形式を取る。

4.次に犠牲者に対して、より抽象的なレベルで第一次禁止の命令と衝突する第二次の禁止命令が行われる。これが第一次禁止の命令に対するメタ・メッセージとなる。

5.犠牲者が関係の場から逃れるのを禁止する第三次の禁止命令が行われる。

6.犠牲者は、ダブル・バインドの一部を知覚するとその任意の状況でパニックや憤激が引き起こされる

Gregory Bateson 「Towards a Theory of Schizophrenia」より 

このようにして、普段の能力、普段の行動としては何の問題なく出来ることも、ダブル・バインドの状態に入ると、対立した思考が邪魔をして、前にも後ろにも進めないということが起こってしまします。 

比喩で言うと、本当は思考の中、つまりその人の認識の中にしか存在しない「前門の虎、後門の狼」を想像せざるを得ないコンテクストの中に入って、現在のところ、物理的制限は無いにも関わらず、普段の能力が発揮できず、フリーズしてしまって何の行動も起こせなくなってしまうということになるわけです。

それで、これを TOCの蒸発する雲(Evaporating Cloud )[2]とディルツ版、ニューロ・ロジカル・レベルをジュリアン・ラッセルが改変した版[3]を合体してモデルをつくると以下のような形式になります。




ダブル・バインドへの対処方針
ここでは、話を簡単にするために個人の中でダブル・バインドのような葛藤が起こっていると考えてみましょう。

ここで少し余談ですが、ベイトソンらはダブル・バインドの状態が続くと統合失調症の原因になると考えましたが、同時に禅を研究し、この二項対立を超えた境地に立つことで、既存の認識の枠組みから飛び出る「アブダクティブな学習」につながるとも考えていました。[5]


さて、上で示したモデルを眺めながらあれこれ考えていただくとイメージが掴みやすいと思いますが、以下にダブル・バインドの対処方針を示します。[4]


1. Reduce the intensity or shift the nature of the double binding relationship.
2. Sort out the contradictory messages.
3. Make meta communicative statements.
4. Filter out or neutralize negative identity messages.
5. Find a way to “leave the filed”.
6. Keep the situation from being a repeated experience.

要約しておくと、

1.ダブル・バインドを起こしている関係性の本質をシフトさせるか、もしくはその強度を弱める。例えば、信念、価値観のレベルを家族療法のリフレーミングを用いて変化させる。[6]
2.反駁しているメッセージをソートする。 例えば、相手の視点に立ってみる。
3.(ダブル・バインドを打ち消すためのより上位の論理階型にある) コミュニケーションにおけるメタ表現をつくる。 例えば、対立しているそれぞれの意図、目的を綜合するようなより高次の目的を持つ。
4. アイデンティティに対する否定的なメッセージについてフィルターをかけて落とすか、中立化する。 例えば、その意見を自己同一化している自己認識の視座から抜け出す。
5. (ダブル・バインドを起こしている)場から逃げる方法を見つける。 一般意味論の「Etc.」やで言われているような例外的な逃避手段を見つけ、決断して逃げる。
6. (ダブル・バインドの)経験を繰り返すことを避ける。 例えば、自分が陥るダブル・バインドのパターンを理解してそこに立ち入らないようにする。

 となります。 

もっとも、ダブル・バインドから抜け出すためには単に頭を使って考えるというだけではなく、一旦出来事に対する意味を保留した現象学的還元のような状態に入って、意識的な思考を停止し、禅のように純粋経験に戻って、その経験の中で身体感覚を使って、そこから抜け出すことを行わなければならないので、ここが注意する点だと思います。 グループでこれを行うには、一旦思考を止めて、「場」の中に居るという状態を創りだす必要があるでしょう。

それで、ダブル・バインドを解消するためには、文字に起こすのが難しい暗黙知的なテクニックを使う必要があるわけですが、何れにしても、単に頭だけでロジカル・シンキングを使っただけではこのダブル・バインドを解くことは難しく、併せて身体感覚や知覚を使うというのがここでの鍵になると思っています。

 運良く卓越した能力を持ったコーチやセラピスト、あるいは、ファシリテータに当たると、クライアント・インタレスト・ファーストでもってきちんとダブル・バインドを解くような方向に導いてくれるのではないかと思っています。 もっとも、ここが一番の制約条件になってしまうのかもしれませんが・・・。
文献

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