2011年10月16日日曜日

話の聴き方(その4)

今回も前回に続いて「話の聴き方(その4)」と題して書いておきましょう。

この回もあまりまとまっていないので後で追記したり、構成を変えたりするかもしれないので予めお断りしておきます。

 さて、話の聴き方(その1)で書いた全体のプロセスを再確認すると 1) 観察 2)傾聴 3)受容 4)共感 5) 承認というようなプロセスを考えると2)の傾聴、実際にはここでは精聴について説明してきたわけです。

 それで普通ならば、5)の承認というようなことをさらりと説明して終わりになるのですが、ここではもう少しこれを人と人との関係性、つまりどのような人間関係を構築することなのかにまで掘り下げて考察してみることにしましょう。

人間関係の元型は2パターン

人間関係をどう捉えるのか?という課題について大きなヒントになるのが、MRIの研究員であり、スタンフォード・メディカル・スクールでも教鞭を執っていたポール・ウォツラウィックの研究に基づく、「コミュニュケーションの5つの公理」だと個人的には考えています。[1]


それで、英語版Wikipedia の当該項目に以下のような表記があります。


Inter-human communication procedures are either symmetric or complementary, depending on whether the relationship of the partners is based on differences or parity.


これは人間関係の手続きやプロトコルの元型にあたるパターンを取り出すと基本的には 1) 対称的 (symmetric)もしくは 2)補完的(complementary)の何れか、もしくはこれが適度に混じり合ったものと規定されています。 

これを少し噛み砕くと、 1) は相手と立場が対等で、思考や振る舞いが対照の関係にある状態、簡単に言うとライバル同士の選手、同じ仕事で競い合っている同僚との関係というのがこれにあたります。 2)は、(これについて縦横の関係は示されていませんが)相手と補完関係にある関係、思考や振る舞いを補完する、例えばピッチャーとキャッチャーのような関係にあることが示されています。

 余談ですが、短期・戦略療法で、クライアントとセラピストの関係はどのようなものであるのが良いのか?という非常に重要なことになってくるのですが、答えから言うと、コンプリメントの関係、つまりクライアントとの補完関係を上手く築きながらクライアントを「労ったり、認めたり」することでクライアント支援しましょうということになってきます。[2]

 ですから、短期・戦略療法を理論や実践の手本としているようなコーチングの場合は、補完的な関係を築きながら、クライアントを「労ったり、認めたり」することでクライアントから資源・資質、あるいは適当な心身状態(例えば、腑に落ちる感じなど)を引き出すことであることが分かってきます。

 もちろん、ここでは鶏が先か卵が先か? つまり、補完関係を築くから労い、認めることが容易になるのか? あるいは、労う、認めるから補完関係を築くことができるのか?という冗談のような話になってくわけですが、これが、ベイトソンがサイバネティックを援用しながら考えた「円環的認識論(circular epistemology)」あるいは「円環的因果論」ということになってきます。 もちろん、技法としてはどちらを先にやっても目的が達成できれば問題無いということになってきます。

ルーツはベイトソンのフィールドワーク

もっとも、1) 対称関係、2)補完関係がどのようにして取り出されたのかを遡ると、グレゴリー・ベイトソンがニューギニアで行ったフィールドワークをまとめた処女作「Naven」にまでさかのぼります。



個人的にはこの本をベイトソンが晩年教鞭を執っていたカリフォルニア大学サンタクルーズ校に立ち寄る機会があったので、サンタクルーズのダウンタウンにある古本屋さんで入手した経緯があります。

それでこの本の中身を簡単にサマリーしておくと。

ニューギニアの部族にイアトムル族という部族がおり、ベイトソンはこの部族の集落が分化、統合される様子をサイバネティックなどのシステム論に先立つ形式で観察した。

この部族は、中央集権的なしくみを持たず、ある意味自律分散的に運営されていた。ベイトソンはこの集落内の葛藤や不和を解決し、崩壊を防いでいる仕組みがこの部族の間で行われている「Naven」という祭事にあると考え、これをコミュニュケーションの観点から観察して書かれたのが「Naven」ということになります。

 「Naven」を非常に簡単に説明すると、(著書ではもっと細かいルールについて説明されていますが)家族にいる子供が何かを達成したとき、に母方の男親族が女装し、父方の女親族が男装して子供を祝うという儀式です。

 それで、ベイトソンはこの中で交わされるコミュニュケーションのパターンとして 1) 対称的 2) 補完的 の2つの元型を抽出してどのようにコミュニュケーションが行われているのかを観察することになったわけです。


追記:この考え方は、後に社会学社のニクラス・ルーマンがオートポイエシスを援用して、社会システムの構成素をコミュニュケーションとして観察する、というようなところにつながってくるわけですが、個人的にはNaven でベイトソンが観察したコミュニュケーションのパターンは家族単位でやっているような会社やSNSなどのコミュニティ運営などにも応用できると考えています。

 詳細を書き始めると長い話になってきますので、ご興味ある方はベイトソンの「Naven」(未邦訳)を読んでいただくか、家族療法家であるリン・ホフマン女史の著作「家族療法の基礎理論 – 創始者と主要なアプローチ -」にこの話のサマリーが書いてあるのでこちらで確認していただければと思います。[3]


ちなみに、一般的なコーチングで言われているような「承認」というレベルではなく、もっとメタ視点を持って、コーチとクライアントの間にどのような関係が築かれつつあるのか? その動的プロセスとパターンに着目する複眼的な視点を持つことで新たな境地が開かれてくるように思えてきます。

文献
[3] http://www.amazon.co.jp/dp/4255003572

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