2011年10月22日土曜日

記憶、想起の中から資源・資質を探す



曖昧なことを正確に実行する

ミルトン・エリクソンの言語パターン


 今日は、心理療法家のミルトン・エリクソンに関連して、「記憶、想起の中から資源・資質を探す」ということについて少し書いておきましょう。

記憶の中から資源・資質を引き出すには?

英語版 Wikipeida にある「Transderivational search」の項目を参照する非常に面白いことが書かれています。[1]

 もっとも、この項目の先頭を読むと「適切な文献が引用されていません」ということが書いてありますが、個人的な理解では、この概念が導入されたのは1970年代半ばに書かれた「Therapeutic Metaphors」[2]や「Patterns of Hypnotic Techniques of Milton Erickson , M.D. vol.1/2」[3]あたりの著作です。


※もちろん現在はこの分析を行ったツールである変形生成文法がミニマリスト・プログラムに更新されている、ということは理解した上で書いています。

 このあたりの著作を読むと、前提として、Transderivational search は元々、チョムスキーの変形生成文法の中にある言葉で、本来は削除・歪曲・一般化が起こっていないシンタクス(統語)として完全な文を深層構造、削除・歪曲・一般化が起こっている文を表層構造とし、変形規則というルールを使って表層構造から深層構造を回復すること、というような意味で使われていたことが説明されています。



次に、上の著作の著者らは、この考え方を援用して、他の人が話す、言葉、表情、ジェスチャーなど、つまり第三者が見たり聞いたり感じたりできることを表層構造


そして、第三者からは推測するしかない、その人の内側でつくられている意味、本音、意志、その身体感覚などを深層構造として表層構造にマッピングを行い、変形生成文法の変形規則ではないのですが、表層構造から深層構造を推測するルール、あるいは表層構造をインタフェースにつかって深層構造の状態に導くルールがないのかどうかをやっきになって探していたという時代だったというわけです。

 それで、ミルトン・エリクソンは、独特の言語パターンを使って、まるで検索エンジンにクエリーを入力するように、クライアントから良い意味での心身状態を伴う、意味、意図などを資源・資質として探り当てる支援をすることが出来たわけですが、この時、どの言葉を使えば、どのような状態を導けるのか? 表層構造から深層構造に至るプロセスを説明するために Transderviational search が使われているということになります。


  もっとも、深層構造で、アイディアやひらめき、あるいは良い意味での心身状態や感覚を見つけるということは、チャールズ・サンダー・パースの「アブダクション」やベイトソンの言う「アブダクティブな学習」[5]ともと関係してきますが、


http://ori-japan.blogspot.com/2011/09/blog-post_25.html


 エリクソンの場合は、言語のロジックに頼るというよりは、イメージされた知覚に間接的に焦点を当ててもらう形式で用いられていることが分かってきます。

Transderviational Searchの条件

それで、更に面白いのはミルトン・エリクソンは通常のコーチングのように普通に質問をするのではなく、あまり関係ないことをつぶやくような形式で、クライアントの資源・資質を引き出すことが出来たということです。

それで、冒頭に引用した Wikipediaを読むとTransderviational search、が起こるためはいくつかの条件があることがわかってきます。

一例として、クライアントに十分なコンテクストを明示しない意図的に曖昧にした質問を行うと、クライアントが勝手にその部分を自分の中の経験や想起からそれを埋めるようにTransderviational search を行うということが示されています。 簡単に言えば、そのあたりの自己啓発本で言われているように勝手に空白を埋めるわけではない・・・つまりそれなりの条件が必要ということになります。 

さらに、ミルトン・エリクソンが使った言語の曖昧さ(Ambiguity)について書いておくと、(1)発音上(2)シンタクス(3)スコープ(4)句読点上 の4種類が導出されています。もっとも、エリクソン財団の推奨のテキストを参照すると、細心の正確さをもってこれを曖昧に行わなければならないという興味深い指摘があります。[4]

また、最近だとこのあたりの概念は、「Six Blind Elephants」[6]で説明されていたように生成文法より認知言語学のプロトタイプとカテゴリー化の概念で説明されていたりもします。

何れにしても、人間のニューロ・コンピュータにたいして、あえて厳密に設計された曖昧なクエリーを投げると、自分の知識や経験、想起をベースにしてこれを補って、資源・資質を引き出してくるということが非常に面白い点なのでしょう。 


 個人的には良い資源・資質を引き出してくるために、曖昧なクエリーを図ったように正確に実行するというようなパラドキシカルな禅問答のような言語パターンに魅力を感じているところでもあるわけです。

文献
[5] http://en.wikipedia.org/wiki/Abductive_reasoning
[6]http://www.amazon.co.jp/dp/0911226419

記事の内容の正誤について、執筆者は一切保証いたしません。また、本書の内容、エクソサイズなどを実行した結果被った被害などについて著者は一切責任を負わないこととします。本ニュースレターの内容は、以下クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに従うものとします。但し、引用元の著作権は引用元に所属します。ご意見、ご感想は次へ tritune'`@''gmail.com

0 件のコメント:

コメントを投稿