2011年10月23日日曜日

ミルトン・エリクソンのレトリック



「メダルの色は、銅かもしれませんけれども……、終わってから、なんでもっと頑張れなかったのかと思うレースはしたくなかったし、今回はそう思っていないし……、初めて自分で自分をほめたいと思います

有森裕子


 今日は、心理療法家のミルトン・エリクソンの言語パターンについて少し書いておきましょう。

言葉は、ある条件下ではイメージをつくり、身体感覚を引き出す

人類学者のグレゴリー・ベイトソンは、心理療法家のミルトン・エリクソンを様々な切り口でその技法に対する観察を行い、ブリーフ・セラピーの基本となる考え方、例えば、ダブル・バインド仮説や Theory of Mind を形式知として導きだしたという経緯があります。


http://ori-japan.blogspot.com/2011/08/blog-post_21.html
http://ori-japan.blogspot.com/2011/08/blog-post_22.html

それで、ベイトソンの理論のような形式知を形式知として学び、自分の暗黙知として実践出来るように学習していくという方法以外に、エリクソンが持っている暗黙知を暗黙知として学び実践を通してエリクソニアンという自己認識を持つと、とたんにミルトン・H.・エリクソンの心理療法における言語パターンの行間、つまり普段は意識に上がっていないメタのパターンが読めるようになるのは、あらぁ不思議というところです。

ミルトン・H・エリクソンの言語パターンは一見、言語学上のレトリックを駆使した、エリクソン文学とも言える独特の言語パターンを使っているわけですが、ここではエリクソン文学という以上に、実際にクライアントの知覚を動かすことの出来る現場主義とも言えるプラグマティズムに基づいた言語パターンだというところに気がついてきます。

昨日の記事でも少し書いたのですが、変形生成文法の、変形規則を当てはめてみたり、一般意味論、あるいは、認知言語学というようにいくつかメガネをかけてみると、ミルトン・エリクソンは、憎らしいほど演出された「曖昧な言葉」を実に正確に用いたことが分かってきます。

言語パターンの例

以下に数ある言語パターンの中でほんの幾つかの例をあげておきます。[1]


 I’m not going to ask you “Will you do this every day?” because that’s your choice.


この言語パターンは、以下の「対立の構造」で書いたようなプロセスをたった一言で実行しているパターン。


I’m not going to ~ (~するつもりはないが)」と否定文を使って、以下に続く疑問文「Will you do this every day ?」、つまりそれを行なっているところを連想させ、(ここは A or B のような二択にして対立を浮き出させても良い)、そのあと、それがどうであれ、「That’s your choice.」というように名詞化された「choice(選択)」という概念でチャンク・アップ、つまり認識の抽象度を上げて一括りにしているパターン。


 Who is here ?


これは、一見、簡単過ぎるほど簡単な質問ですが、一般意味論のE-Prime に違反している be動詞でもって、Who:自己認識と Here:場所をリンクして、その場所に来ると、自己認識の身体感覚に注意が向くようにした、アナロジカル・マーキングのパターン。


 And, isn’t  is nice that we ended up being comfortable with trying new (sometimes wildly new ) things to help her .


 Isn’t is nice ~という否定疑問の有名なパターンでクライントのイメージを想起して、クライアン自身が身体感覚を伴って自分への承認を行う支援をする質問になっているわけです。

この質問でクライアントに一端メタ視点に出てもらって、次に、being comfortable ~という具合に、承認の対象が、アウトカムに向けて何かを行なっている途中のプロセスに対して行なっているというところがポイント。 要は、「目標に向けて何かをやっている、途中の行動自体が楽しいでしょう?」 「 はい!!」という確認。



I don't know how much you've learned today , and wouldn’t it be a nice  surprise to wake up tomorrow,or find on your way home today , how much has (have) changed.


 これも、I don’t know ~という否定形を伴う疑問の後に、 how クエスチョンを使ってクライアントが何かを経験しているところをプロセスに戻して、かつ 指示子を指定しない動詞 learnedを続けて、クライアントにTransderviational searchを促す。また、wouldn’t’t be ~の否定疑問文を使いイメージを想起してもらって a nice surprise は名詞化で、抽象度を上げた承認を引き出す。その後は、フューチャー・ペイシングで、現在完了形を使って、もう既に起こったことのように話している。

となるわけです。

 それで、この抽象度で書いていくと本が何冊もかけるような量になるのでしょうが、エリクソンの単なるレトリックに収まらない言語パターンというのは非常に深いことが改めて理解できるということになってきます。

 それでこのあたりの文献を丁寧に読んでいくと、コーチングで言う「承認」は、別にコーチがクライアントに「承認」を与えるわけではなくて、自己再帰的意識を使ってクライアントが自分で自分に承認を与えているということが分かってくるわけです。要は、クライアントが自分で「腑に落ちる感覚」を引き出す支援をしているのがコーチや心理療法家の技法というわけです。

文献
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