2011年12月2日金曜日

短期・戦略システム心理療法家のための10+1のガイドライン



「いわれたことの全てにはそれをいった誰かがいる」

ウンベルト・マトゥラーナ、フランシスコ・ヴァレラ 『知恵の樹』


今日は、「短期・戦略システム心理療法家のための10+1のガイドライン」と題して少し書いておきましょう。

オートポイエシスのシステム論

今日は、以下のリンク先のエッセーについて少し書いておくことにします。


このエッセーは、ハンブルグ派の家族、システム療法家のカート・ルードウィヒによって書かれたもので、心理療法家が治療を行うプロセスにおいてどのような態度でクライアントや課題に向きあうのか?が質問に還元されて示されているガイドラインです。

それで個人的にこのエッセーは非常に気に入っているわけですが、その理由の一つが援用されているシステム論として「オートポイエシス」[1]ベースで書かれていることです。例えば以下のような具合。



(1)   言われたことのすべては観察者によって言われたことである。
(2)   観察者は経験を言語によって記述している生き物である。
(3)   コミュニケーションにおいて、言われたことのすべては、観察者によって産出される。
(4)  リアリティ、はその視座からのリアリティである。
(5)   システムとは、観察者によって産出された各種の要素の構成単位が綜合されたものである。
(6)   「システミック」とはシステムの目的から語られる時の言葉である。※本来オートポイエシスは目的論には言及せず、存在論についてのシステムであるため、個人的にはこの言説には同意しません。


「オートポイエシス」はチリ出身の神経科学者ウンベルト・マトゥラーナとフランシスコ・ヴァレラによって提唱されたシステム論としての概念ですが、簡単に言うと、環境と自己を区別して創発的に立ち上がってくる、そして、負のエントロピーを食べて時に何かを認識し好き勝手に振る舞う、生命を記述することが出来るため、家族療法などでも応用されています。[2]

通常、システム論というとベルタランフィの一般システム論[3]を思い浮かぶことが多いのですが、これだと物理的な世界と意識のような論理的な世界がどのように相互作用しているのかが上手く表現できない場合があるわけですが、オートポイエシスを使うとこのあたりの記述が上手く解決されているということが上げられます。

余談ですが、このシステム論、あるいは人の認識論としてオートポイエシスを援用して構築されたのが以下のリンクで書いたオントロジカル・コーチングという具合です。


 また、これだけだと何の変哲もない個人の認識の範囲でのオートポイエシス論で終わってしまうわけですが、さらにこのエッセーではハンブルグ派の心理療法家らしく、同じドイツの社会学者でオートポイエシスの概念を社会に応用したニクラス・ルーマンの社会システム論を援用して集団のコミュニケーションを通しての心理療法ということがさらにポイントが高いとこです。

 このあたりはルーマンの「社会システム理論」[4]を再度読む必要がありそうですが、オートポイエシス論は社会システムに適用可能だとするマトゥラーナと神経系や細胞に留めるべきであると考えるヴァレラの意見が対立して袂を分かった後に、ルーマンが「コミュニケーション」をオートポイエシス・システムの構成素とした逆転の発想で社会システムを記述し始めたという背景が存在しています。

もっとも、こういった発想は、家族療法などにおいて、課題は、人の認識、さらに人と人との関係性、人とコンテクストとの関係性で起きていると考えるため、その課題をシステム思考で解決するためにはやはり、そういった認識や関係性を記述できる方法論というのは非常に有効だというわけです。
  
 それで、ハンブルグ派の援用しているオートポイエシス論の適用範囲は、上で述べたように、マトゥラーナとヴァレラの間で見解は別れていた時期にルーマンが独自の道を開いてオートポイエシス自体もかなり混乱していた時期にあり、(ベイトソンの理論にとても忠実な短期療法を行なっている)ミラノ派も巻き込んだ形式で、ハンブルグ派の理論が前進、後退を繰り返しながらかなり揺らいでいる様子が見て取れるところから、今、試行錯誤してつくっている感があってかなり面白いと思います。

 もっとも、本題のガイドラインに戻ると、たった11個の質問を導くのに、オートポイエシスの前提(例えば、「言われたことのすべてには、それを言った誰かがいる」)から厳密にやっているのが律儀なドイツ人らしくて個人にはとても好感が持てるので個人的にはこういうのはかなりストライクゾーンど真ん中という感じです(笑)。



それで、実際には、クライアント、セラピスト、コンテクストをオートポイエティックなシステムと考えて、以下のガイドラインが示されていることになります。

セラピー・システムのタスク
ガイドライン
セラピー・システムを創り出す
1.     自分自身をセラピストとして定義せよ
2.     自分自身をリスペクトせよ
セラピー・システムを維持する
3.     自分自身をクライントに向き合わせる
4.     価値を尊重せよ
5.     自分自身を律せよ
6.     謙虚であれ
顕著な変化を刺激することでセラピー具現化する
7.     柔軟性を残しておく
8.     建設的に質問する
9.     サプライズのある介入を行う
セラピー・システムを解く
10.時間内に終える
プラス1
11.上のガイドラインに盲目的に従うな、必ずコンテクストに併せてカスタマイズせよ

個人的にはヴァレラの個人の認識としてのオートポイエシスなのか、ルーマンのようにコミュニケーションを構成素としたオートポイエシスなのかは判断がつきかねるところがあるのですが、おそらくいくらドイツ人でもこのエッセーではそこまで厳密なことは考えていないのだろうなぁというのがここでの結論ということになります。(笑)
 

文献
(参考) http://www.amazon.co.jp/dp/4772003673


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