2012年1月2日月曜日

矛盾を綜合して未来を創る力



夢想家は、未来を感じて、未来を描き出す。

批評家は、過去を振り返り、そして未来を過去に学ぶ。

実務家は、客観と主観を超えたところで反省しながら実務を行う。

良い会社は、夢想家、批評家、実務家の認識の相違を綜合して新しい次元の認識を創りだす。そして未来が創発される。

独り言


今日は、「矛盾を綜合して未来を創る力」と題して少し書いておきましょう。

未来はどうつくる?
 
新しい年を迎えて、今年の目標を書きだしてみたりするわけです。

それで冒頭から少し気が滅入る話になるわけですが、実際にその目標を達成する上では多くの障害や関門が待ち受けていることも少なくありませんし、そもそもその目標に矛盾やパラドクスが含まれていて前にも後ろにも進めなくなってしまうということがあります。

 それでも、このブログで主張していることは、こういった状態こそ、新しい視座を得て新しい次元に飛躍するチャンスだと考えているわけで、かつ具体的なツールを提供することが目的でもあります。


 この場合、自分自身といった個人で考えた場合に、葛藤を抱えているということもあるでしょうし、グループ、家族、あるいは、会社組織のような集団の中に矛盾や葛藤、対立が存在するということが考えられます。

それで、今日は、基本的にグループの中の対立や葛藤についてホンダを例に取り、この矛盾や葛藤の中に組織が成長するヒントがあることを書いておきましょう。

夢想家は未来を感じる
 
組織の中にはやはりリーダーが必要です。リーダー自身が細かい製品やサービスを考える必要はないのでしょうが、それでも大きなビジョンを描き、それを他の人と共有して行く必要があるでしょう。 その意味ではリーダーは少しばかり脳天気な夢想家である必要があるでしょう。

それで、野中郁次郎先生らの著作「流れを経営する」[1]の中に、城山三郎氏の「本田宗一郎との100時間」[2]を引用して、本田宗一郎氏が未来をどのように思い描いていたのか? といったやり方、つまりプロセスが具体的に書かれています。


宗一郎氏は現場を重視したが、それは単なる経験主義ではない。ただ現場を見るだけではなく、そこでいかに深く考えるのかという「行為の只中の熟慮(contemplation in action)」が重要なのである。

 「マシンを見ていると、いろいろなことがわかります。あのカーブを切るには、ああやれば、こうすればと・・・・。 そして次のマシンのことを考える。こう考えていれば、もっととばしてくれる、などど。次の制作過程へ自然に入っているんです。」と宗一郎は述べている(城山、1984

マシンの細かな動作を五感で感じ取りながら、その一つひとつの現象が何を意味するのかを洞察して未来を思い描いているのである。


ここで本田氏は、過去に構築された余計な思考フレームを一旦保留し、そして「今ココ」で知覚出来ることに戻り、現場を見て、聴いて、感じて、そこで得られた純粋な経験からのみ未来を描いていくやり方が描かれています。

もちろん、ここでは卓上の理論をあれこれ振り回すのではなく、現場に趣き、そしてそこから得られる実際の経験をもとにして未来を思い描いていることがポイントなのでしょう。

つまり、これは、MITのオットー・シャーマ博士の提唱する U 理論ではないですが、「未来を知覚でプリセンシングしてそれをだんだんと明らかにしていくやり方」と言っても良いでしょう。

しかし、企業経営は夢想していれば上手くいくような生やさしいものでもないでしょう。

社長というのはワンマンになりやすく、ともすると市場のニーズや顧客の声ということを無視して暴走しがちです、また、社内にもイエスマンばかりを増やして自分が皇帝になったちっちゃな帝国を築こうと考え始めると組織の風通しが悪くなり、新しいアイディアが生まれなくなって会社は活力を失い左前になっていきます。

そこで必要なのは、夢想家である社長を諌める、健全な批判精神を持った女房役です。

批評家は過去から学ぶ
 
それでやはり「流れを経営する」の中に、以下のような記述が見つかります。


本田のもう一人の創立者である藤沢武夫は、本田宗一郎のような特別な人間を育て上げることは不可能だとして、「そこで、複数の知恵を集めれば、本田一人よりもプラスになる。本田宗一郎の持っている力よりもレベルの高い判断力が生まれる。そういう体制をつくらなければならないのです。」(藤沢、 1998)と述べている。 自律分散的賢慮の育成により、どのような状況にも弾力的かつ創造的に対応し、善を追求できるしなやかさを備えたしぶとい組織(resilient organization)を構築することができるのである。(Hamel ,2003)



この記述を読むと、組織運営で最も大事なことは、カリスマの属人性に頼るのではなく、早い時期からそこカリスマ性をチームで発揮できるような体制を築くことに心を砕いていることが分かります。

これは、リーダーひとりがどんなに優れていても、会社を成長させる上で、その優れた能力が属人化する事自体がリスクになるのは自明の理です。

それで、組織という「場」の中で、リーダーに限らず、そこで働くそれぞれの人達のその能力を属人化することなく、それを進化させ継承していくのか?については、十分考えおかなければいけないと気付くことになります。

さらに、三代目のホンダ社長で実務家であるエンジニア出身の久米是志氏の著作である「「ひらめき」の設計図」[3]を読むと新エンジンの開発に行き詰まった時に藤沢武夫氏からかけられた以下のような記述があります。


「いくら先を見つめたって、そんなところに未来はないよ。未来を見たければ、自分たちの過去を探しなさい。過去の失敗の泥の中に、未来を開く鍵がある」。これは、空冷の1300ccエンジンの設計に行き詰まった久米氏に対して、当時副社長だった故・藤沢武夫氏が贈った言葉です。


 このあたりからすると、本田宗一郎が、「今ここの現在から未来」中心に見つめていたのに対して、藤沢氏は「過去から未来」を見つめているような視点を持っていたことが伺えます。

これは、本田氏がとにかくピジョナリーで明るい未来を見ている「夢想家」であるのに対して、藤沢氏が過去の失敗から得た教訓、あるいは、未来に対するリスクを見ており場合によっては社長を諌める「批評家」そして現場と社長の間を取りなす「仲介役」であったのは非常に興味深い点です。

現場に実務家がいなければ会社は動かない
 
さらに、現場のひとりのエンジニアでありながら、空冷エンジンの優位さを主張する本田宗一郎氏に対し、水冷エンジンの優位性と将来性を訴え、「空冷エンジン vs. 水冷エンジン」の論争に勝利し、後に三代目のホンダの社長でもある久米是志氏に代表されるような実務家を忘れるわけにはいかないでしょう。

要は、現場は実務家が一番詳しく、この実務家が動かしているというわけです。

 実務家は、真実に対しては相手が誰だろうと絶対にその主張を曲げない。しかも、そこに至るまでには、自分自身の認知バイアスに気づき、そしてダブル・ループ/トリブル・ループ学習で場合によっては自己認識さえ改めて事実、真実を追求していくような非常にきちんとした道筋があるように思ってきます。


前述の『「ひらめき」の設計図』に以下のような記述があります。


自分の経験にこだわるあまりに、明らかな事実を無視したり、事実を受け入れることを拒否するような態度は極端であり論外ですが、自分の経験によって知っていることに基づいて、いろいろな情報、データを解釈して「・・・はずだ」と推論を創り上げることはありがちなことです。 ですが、これでは「客観的反省」はできても「主体的反省」にはなりません。自分の中にある自分の経験を判断基準として変えない、つまり主体を変更することなしに不具合の原因を自分の外に、つまり客体(客観的情報)に原因を求めて推論をつくるからです。 


それで、ここまでの結論は、非常にシンプリファイされた考え方になるわけですが、活力があり創造性を発揮している組織というのは、夢想家、批評家、実務家のそれぞれの意見の対立を上手く綜合して新しい次元の認識を作り出し、そこから新しいアイディアや製品/サービスが出されるような組織のことではないかと思ってきます。 

文献

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