2012年4月20日金曜日

ミルトン・エリクソンの言語パターン(その29)リバース・セット



 まぁ、こんなこと書いても、これだけの情報で誰でもリバース・セットができるようになるわけじゃないからまぁいいか。(笑)

 で、個人的にはエリクソンを研究する時は間違っても不思議系にはいかないほうが良いと思うわけで、認知科学とか現象学の視点でもって、どういう条件でその現象が再現性を持つのかをいつも意識しておかないと、単なる宴会芸レベルの、世のため人のためにはまったく役に立たたないことを学んでしまうことになるように思ってきます。
 
独り言


今日は、「ミルトン・エリクソンの言語パターン(その29)リバース・セット」について書いておきましょう。

従来の認識に対する新しい反応の形成

 ミルトン・エリクソンの技法として「Yesセット」、「Noセット」のパターンが取り出されていますが、「リバース・セット」は論理的に理解するのが難しい少し不思議なパターンです。[1]

 リバース・セットのパターンは、エリクソンの質問に対して、通常クライアントの「頭ではYes、体の反応もYes」あるいは「頭ではNo体の反応もNo」という反応が予想される状況において、リバースの名前の通りに「頭ではYes だけれど体の反応が No」「頭では No だけれども体の反応が Yes」のように、ある意味、従来の認識に対して反対の行動パターン、あるいは新しい行動パターンを形成する技法です。

 ただし、文献を読んでみるとエリクソンは何らかの条件によってリバース・セットのパターンを使うのが適切かどうかを判断している節が見られます。例えば、スタンフォード催眠感受性尺度の低い人向けなど。[2]

 このパターンが明示的に抽出される元になっているのは、1958年にエリクソンがスタンフォードの研究室を訪れ、ルースという名前の女性(ヒルガードの秘書)と行ったセッションだと考えられます。この映像は、スタンフォードで教鞭を取っていたアーネスト・ヒルガードとMRI(Mental Research Institute)の研究員であったジェイ・ヘイリーが研究のために撮影しています。

この映像について、つい最近 Youtube3359秒の完全版がアップロードされているのを偶然発見したわけですが、エリクソンの研究者の方には必見のように思ってきます。


もちろん、このビデオはエリクソンのバーバルな技法とノン・バーバルな技法が入り乱れており、1)統語論、2)意味論、 3) 語用論などのフレームワークを立ててベイトソンかウォツラウィックにでもなったつもりできちんと観察しないと何をやっているのかまったく意味不明な高度な技法が活用されているように思ってきます。

ちなみに、このセッションを起こしたスクリプトについては以下を参照していただくとして

ttp://mindsci-clinic.com/hypnotism/how-hypnotism-works/erickson-ruth/

リバース・セットの部分だけ解説しておきましょう。

否定疑問文の答えが英語と日本語で Yes/No.がひっくり返ることもこの理解をややこしくしていますが、ここにも注意しながら考えてみることにします。また、エリクソンが相手の女性に「girl」という言葉を使っていますが1958年に撮影された時代背景も考慮する必要があるでしょう。(もしかすると小さな女の子に話しかける言葉を使っていることで、子供の頃を思い出してね・・・というメタ・メッセージを送っているのかもしれませんが・・・
http://ori-japan.blogspot.jp/2012/07/blog-post_10.html

18分55秒付近から
E:Now I'm going to ask youis your first name Ruth (Ruth nods Yes.) That's right. Are you a girl? 
R: Yes.
エリクソン:さて、今ココで質問を始めようと思います。あなたの名前はルースですか?(ルース、Yesとうなずく)。いいですね。あなたは女の子ですか? ルース:はい

E: You just nod your head or shake your head in answer. Are you a girl? (Ruth nods Yes. ) Are you sitting down ? Ruth nods Yes.
エリクソン:答える時はうなずくか首を横に振るだけで構いません。あなたは女の子ですか?(ルースはYesとうなずく)あなたは座っていますか?(ルースは Yesとうなずく)

E: All rightnow I'm going to ask you some other questionsand you will nod your head in answer. Is your name Ann? (Ruth shakes head No.) And you will nod your head in answer.(Erickson models ,nodding Yes.) Is your name Ann ?(Ruth nods Yes.)
エリクソン:いいですね。さて、他の質問をしようと思います。うなずいて答えてください。 あなたの名前はアンですか?(ルースは No-いいえ、と首を横に振る)。で、あなたはうなずいて答えることができます。(エリクソンはルースを真似てうなずく。)あなたの名前はアンですか?ルースは Yes-はい、とうなずく
※2回目の質問で一回目とは反対の反応が引き出されています。

E: That's right. Because your thinking can be different than movement of the muscles in your neck. Are you standing up?(Ruth nods Yes.)
エリクソン:いいですね。なぜなら、あなたの考えていることはあなたの首の筋肉の動きとは違っていることができるからです。立ち上がろうとしていますか?(ルースは Yes とうなずく)。

E: That's right. And are you a boy? (Ruth nods Yes.) That's right
エリクソン:いいですねえ。あなたは男の子ですか?ルースは Yes とうなずくいいですねえ。
※先ほどの質問では女の子ですか→Yesと反対の反応が引き出されています。

E: And now I want you to shake your head No. (Erickson  models head shaking.) Your name isn't Ruthis it? (Erickson  shakes No; Ruth shakes No.)
さて、私はあなたに No と首を横に振って欲しいのです。(エリクソンはルースを真似て首を横に振る)あなたの名前はルースではありませんね。エリクソンは No-はい、ルースではありません- と首を横にふる。ルースも No と首を横にふるあなてソンるあなたの考えていることはあなたの首の筋肉の動きとは違l.,n'

E: And you aren't  a girl are you?(Ruth shakes head No.)
エリクソン:あなたは女の子ではありませんね?ルースは No-はい、女の子でありませんと首を横にふる)。

E:And You arent sitting down , are you ? (Ruth shakes head No.)
エリクソン:座ろうとはしていないですね?ルースは首を横に振ってNo-はい、座ろうとしていません

E: And you aren't in tranceare you? (Ruth shakes head No.)
エリクソン:で、あなたはトランスに入っていませんよね。(ルースは首を横に振って、No-はい、トランスには入っていません)
※少なくともルースはトランスに入っていないと思っている。

E: And you aren't answering meare you? (Ruth shakes head No.) And you're not going to answer meare you? (Ruth shakes head No.) That's right. And you can hear everything I say ,can you not ? (Ruth shakes head No.) And you wont hear anything I say to you , will you ?(Ruth shakes head No.)
エリクソン:で、あなたは、私の質問に答えてないですね?ルースは No-はい答えていませんと首を横に振る:ダブル・バインドで、あなたはわたしの質問に答えるつもりはないですね?ルールは、No-はい、答えるつもりもありません:ダブル・バインドいいですねえ。私がいったことはすべて聞いていますねぇ?(ルースは、No-いいえと首を横に振る)で、あなたは私がいったことを何も聞いていないですね。ルースは、No-はい、何も聞いていませんと首を横に振る:ダブル・バインド)。

E: All right, and  you can close your eyes.
エリクソン:いいですねえ、あなたは目を閉じることができます。

E: You can close your eyes, can you not?
エリクソン:あなたは目を閉じることができますかねえ?

E: And youre closing them , are  you not? (Ruth closes her eyes.) That's right. And you can enjoy sleeping more and more deeply all the time. And your really , arent you ?(Erickson nods head  continuously.) Thats right. And you really are - and just keep right on sleepingdeeper and deeper in trance.
エリクソン:で、目を閉じましたね?(ルースは両目を閉じる)いいですね。で、あなたはいつでも深い深い眠りを楽しむことができます。で、本当にそうですか?(エリクソンはうなずきつづける)いいですね。あなたは、本当に、眠りにあり、深い深いトランスに入っていきます。

ここでは、付加疑問文(Tag Question)などの細かい技法については説明しませんが、映像をよく観察すると途中から、Yes , Noに対する身体の反応がある時を境にして綺麗に反転しているところが分かると思います。

これは、人の認識としての Yes, No つまり何かの枠組みを設定して判断された真偽に対して、Yesならうなずく、No なら首を横に振るというそれまでの行動が、Yesなら首を横に振る、Noならうなずくと見事に、認識→行動のパターンが反転していることが分かってきます。

それで、トランスを伴わなくても誰にでも出来る通常の「Yes セット」、「No セット」と比較すると、「リバース・セット」は頭で考えている反応と体で行う反応が一旦分離され、さらに元の反応のパターンを反転して接続された格好になっているため難易度が高いと思います。

また、倫理的には相手の同意も必要で、ビジネスやコーチングの場面などでは使い難いところがあるようにも思ってくるわけですが、普段身につけている認識→行動というパターンを変化させる技法という意味では非常に興味を引くところのようにも思ってきます。

それにしても、今から50年以上も前にエリクソンが自然にやっていた不思議な現象を、スタンフォードの頭脳をもってして、この秘密を解明しようと研究が行われていたことを想像し、ヒルガードがエリクソンから何を学んだのかを考えると、これはこれで興味深いことのように思ってきます。

それにしてもやはりミルトン・エリクソンの技法はある意味神業で、人間国宝の域に達しているようにすら思ってくるわけですが、ベイトソン、アーネスト・ロッシ、MRIの人達をはじめ多くの頭の良い人達が惹きつけられてきたわけですし、今でもブリーフ・セラピーカンファレンス(次回は2015年)が開催されると全世界から数千人から最大2万人ものPh.D.を持った人が集まるように、非常に多くの人達が惹きつけられている理由が少しだけ分かったような気分になってきます。


というわけで、個人的にはミイラ取りがミイラにならないようにあくでもベイトソンの視点をもってエリクソンを観察することに徹しているのでブログも「ベイトソニアンのひとり言」としているわけですが、この命綱がないと自動的に深みにはまっていってエリクソニアンという自覚のないエリクソニアンに成っていくことが容易に予想されるので結構危ないなと思っている今日この頃でもあったわけです。(笑)

関連リンク

(つづく)

文献

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