2012年7月11日水曜日

エリクソン催眠では原因分析はしない

                                     

エリクソン催眠やブリーフ・セラピーはクライアントの問題解決のために時系列的に過去にある原因分析は行わないのだけれども、結構、これが分かっていない人が多いのだよなぁ(笑)

エリクソン催眠誘導を使って、トラウマの原因を退行催眠で再体験して、原因を分析して・・・といった記述をネットで見つけるとまさに「悪い冗談」って感じですねぇ。

独り言


今日は、「エリクソン催眠では原因分析はしない」について書いておきましょう。

原因分析による問題解決が機能するための条件

 人類学者のグレゴリー・ベイトソンは、


The major problems in the world are the result of the difference between how nature works and the way people think.

世の中の主たる問題は、自然の摂理と人の思考の差異によって生じる結果である。


 と言ったわけですが、世の中の多くの問題や課題は、構成主義的に物理学の法則が成立つ外的な世界と、心理学的な法則が成立つ内的世界の循環をきちんと考えていないと解けない問題や課題が多くなってきているように思います。

 これを考える前にはじめに、日常生活や仕事の場面でも一般的に活用されている「原因分析」の思考について考えてみましょう。

 日常生活や仕事の場面での問題解決を行うために、まずはその原因を分析しつきとめましょうという趣旨の面白い本「たった2つの質問だけ! いちばんシンプルな問題解決の方法―『タテの質問』で掘り下げ、『ヨコの質問』で全体像をあぶり出す[1]があります。

 この本によると以下の2つの質問

l       問題の原因を一つあげてください(タテの質問)
l       その原因が解決できると、この問題はすべて解決できますか?(ヨコの質問)



 を駆使しながら、一般的にコンサルタントの使ういわゆるイッシュー・ツリーやロジック・ツリーを書きながら問題の構造を分析する手法が紹介されています。

 手法や方法論はそれが上手く機能する場面では非常に有効な働きをすると思いますが、これをもう少し掘り下げて、このような方法論がどのような条件下で機能するのかを考えることで面白いことが分かってきます。

 例えば、この手法が機能するのは以下のような条件が必要でしょう。

l       問題は物理的な世界に外在している。
l       人の認識と外的にある問題との相互作用を切り離して考えられる状況にある。
l       つまり誰が見ても客観的かつ定量的に評価できるところで起こっている。

(例:機械を製造しているベルトコンベアが止まった、原因はコンベアの部品のある特定の場所のベアリングのオイル切れによる加熱が原因のようだ・・・コンベアが止まったことは誰が見ても明らかであり、加熱は温度計で定量的に計測できる、など)

 もちろん、このような条件を満たす問題の場合は上の2つの質問を駆使して原因を特定し、問題を起こしている原因が起こらないように対処することで少なくとも元通りに動作することを目標とした問題解決を行うことは出来るでしょう。

外的世界と内的な世界が相互作用する時

 逆に上で述べた条件に当てはまらない場合を考えてみます。

l       問題は人の認識の中にある。
l       あるいは、外的な世界と内的な人の認識が相互作用しており切り離すことが難しい。
l       主観的で定性的な問題である。

 このブログでは医学的、治療に関する助言を行うつもりはありませんが、一つの例として考えましょう。

ある一つの出来事が当人にとって物凄く衝撃的な出来事であり、それが情動記憶として強い情動を伴って神経系にコーディングされるとPTSD(Post Traumatic Stress Disorder)のような症状を引き起こすことになるでしょう。[2]

 なぜ、これを最初に説明したかというと過去の出来事が原因になって現在なんらかの問題が起こっているという具合に物理的世界と論理的世界の間の因果関係(厳密に言うと相関関係)がわりと明確だから。

  この場合、1)過覚醒(交感神経系の亢進状態が続き不眠やイライラなどが認められる),2)再体験(原因となった外傷的な体験が意図しないのに繰り返し思い出されたり夢に登場したりする),3)回避(体験を思い出すような状況や場面を意識的あるいは無意識的に避け続ける),および 4)感情や感覚などの反応性が麻痺するという症状が特定の出来事が原因となって引き起こされているということになるでしょう。 


 もちろん、エリクソン催眠が症状を低減させるという研究結果もないわけではないですが[3]REBT/CBTEMDRなど手法は色々あるわけであり病院に行って医師に相談するということになるでしょう。 それで、エリクソン催眠を使う場合も原因を再体験させるといったことは行いません。

 もう一つは衝撃的な出来事を経験したわけではないのだけれども、特定の出来事に対する苦手なパターンが形成されるような場合が考えられます。


 もちろん、この場合はいくつかの経験を帰納して抽象度の高い認知のためのスキーマ、信念、価値観をつくりだしていると考えられるため、記憶の中にある抽象度の低い個々の出来事に対処しても意味が無い上に、第一個々の出来事を思い出すこと自体が難しいでしょう。


 それで、問題解決のためには、思考や行動のパターンを変えるためにこのスキーマ、信念、価値観に働きかけるようなことを行うことになってきます。

 それで、ジェフリー・ザイク著「Milton Erickson[4]の中にミルトン・エリクソンが年齢退行を使ってクライアントが変化のために必要な愉快で純真な心身状態といったリソースを探すのを支援している面白い例が見つかります。 もっともこの場合、巷で言われているような、不快な経験を再体験してもらっているわけではないことには注意が必要なのでしょう。

 それでここまで書いてきたことの要点は何か?と言われると

取り扱う問題が、
l       問題は物理的な世界に外在している。
l       人の認識と外的にある問題との相互作用を切り離して考えられる状況にある。
l       つまり誰が見ても客観的かつ定量的に評価できるところで起こっている。

 というような問題でない場合は、単純な原因分析を行うやり方は機能しないでしょうし、それが日常生活や仕事の場面であっても認知科学者のような知見と心理療法家のような技法を使って解決しないと問題や課題は永久に解決しない、というのが結論のように思います。

もっとも、ここからは余談ですが、個人的には年齢退行しないジェイ・ヘイリー[5]の戦略的アプローチや、スティーブン・ギリガンの「The Heros Journey [6]あるいは Theory U[7]のように今・ココで制限をつくっているスキーマ、信念、価値観の枠組みから抜け出すやり方のほうが好みなのですけれど。



ちなみに Wikipedia


という項目が出来ていたわけですが、何の学術的な裏付けも示さずにフロイトさえ捨てた技法についてこんな出鱈目を抜け抜けとかける知性を疑います。

(つづく)

 文献

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