2013年8月25日日曜日

「猿丸幻視行」と多重埋め込みメタファー



「逆説の日本史」の愛読者だという関係もあって、ブックオフで偶々見つけた1980年の井沢元彦氏の江戸川乱歩賞受賞作品「猿丸幻視行」[1]を読んでみたわけです。本書は、江戸川乱歩賞受賞が証明しているようにかなり尖った作品で、読者にいままでにないインパクトを与えるとともに、この物語の構造がとても凝った構造で書かれていることが認識できたわけです。

 それで、この物語の構造を支えている具体的な技法について考えると、心理療法家のミルトン・エリクソンがクライアントの抵抗を抑え、認識や行動の変化を支援するために使った多重埋め込みメタファー (Multiple Embedded Metaphors)と呼ばれる技法と同じが使われています。[2]

具体的には、A主人公の生きている現在(主人公の視点)・・・・・・B折口信夫の生きた時代(折口信夫の視点)・・・・・C猿丸太夫(柿本人麿)の生きた時代(折口信夫が推理する視点)・・・・・・B折口信夫の生きた時代・・・・・・A主人公の生きている現在・・・のように物語の中に物語がネストする構造で暗号の推理が紡がれています。

で、ここで「なぜ、物語をこのような構造で紡いだのか?」と推測することになるわけですが、物語の中に物語をネストしていくことで、読者(審査員)が物語の内容に抵抗することなくひき込まれる、また、独特の幻想的な雰囲気を作り出し、無意識からじわじわ迫るような感じの作風である印象を与えることに成功しているように思ってくるわけです。

そう考えると江戸川乱歩賞にしても芥川賞にしても直木賞にしてもクリティカル・シンキングで厳しく審査している審査員のクリティカルなモードを麻痺させて物語の中に引き込み、作品にインパクトを持たせるためには、ミルトン・エリクソンの使った技法は非常に有効なのでしょうねぇ。(笑)余談ですが、物語のプロットにダブル・バインドを用いているのは結構多いと思います。

 独り言

「猿丸幻視行」と多重埋め込みメタファー
 
 心理療法家のミルトン・エリクソンの技法を継承する一派はエリクソニアンと総称されています。また、エリクソニアンはクライアントの心理療法的ゴール達成の間接的暗示を行うためにメタファーを使用することがあります。


メタファーについてもう少し細かい話をすると、エリクソニアンのメタファーはセラピストがクライアントの問題や状況をよく聴き、セラピストがつくるメタファーということになります。従ってセラピストは作家となる必要があります。


 さらに、このメタファーの発展的な形式として、メタファー/物語の中に別の物語を入れ子にしてネストするような構造を取る技法を多重埋め込みメタファー(Multiple Embedded Metaphors)と言う技法があります。


 それで、こいうったメタファーは別に心理療法家だけの専売特許というわけではなく、読者の抵抗を抑え、作家の伝えたい主張を上手に読者に伝えるという目的で伝えることが分かってくるわけです。

 最近、ブックオフで井沢元彦氏の江戸川乱歩賞受賞作品の「猿丸幻視行」を手に入れて読んでみたわけでが、この作品がまさに多重埋め込みメタファーで書かれていることが分かってはっとしたわけです。

 概要は、現在にすむ主人公香坂明が、ある製薬会社の開発したタイムマシーン(過去に住んでいた人の意識に同化できる薬)の実験を頼まれ、明治時代の折口信夫の意識に同化し、折口の頭脳を借りて、暗号を解くことで、猿丸太夫(柿本人麿、この物語では同一人物であるという仮定がある)の秘密を解くことがこの物語の概要となっています。

 ここで、あえてこの物語を多重埋め込みメタファーにした意図を考えると色々なことが見えてくることになってくるわけです。

(つづく)

文献
[2] http://books.google.co.jp/books?id=hx_8B4PQN54C&pg=PA186

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