2014年5月20日火曜日

人がファイヤーウォークをする理由:「火渡り」と「メタファー」と



 人間はある出来事そのものの事実を見るだけではなく、その出来事をメタファーとしても見る生き物なので案外厄介なのですよねぇ・・・・(笑)。



「火渡り」と「メタファー」と

 日本では山伏の修行などでお馴染みの「火渡り」があります。これは燃え盛る炭火が敷き詰められて絨毯のようになっている場所を裸足で渡り切るという例のアレです。


 それで、人が火傷のリスクを負ってまで「火渡り」をする理由は何か?

  これが今日のテーマです。

 もちろん、色々な理由があると考えられますが、一つは「火渡り」を認識や行動に変化を起こす「メタファー」として利用しているということがあげられるでしょう。

 認知言語学ではその体系の中心に置かれているメタファーですが、その定義は「二つの事物・概念 の何らかの類似性に基づいて、一方の事物・概念を表す. 形式を用いて、他方の事物・ 概念を表すという比喩」です。また、心理療法の分野ではクライアントの認識や行動に変化をもたらすためにメタファーやナラティブが活用されているのもご存知の通りです。

 さて、少し具体的な話に踏み込んでみましょう。自己啓発コーチングで少なくともビジネス的には成功しているアンソニー・ロビンズが居ます。この人が成功するきっかけになったのが売れない営業マンのための「火渡り」ワークショップ、というわけです。[1]


 もちろん、個人的に積極的にこれをお勧めするつもりはないし、シドニー大学でコーチング心理学を教えている同じアンソニーでも、こちらはアンソニー・グラント教授は、アンソニー・ロビンズのNACの方法論は学術的には怪しいところがあると指摘しているのでこういった意見にも耳を傾ける必要があるでしょう。もちろん、ここでの怪しさとは元々NLP(神経言語プログラミング)が持っているインチキさに由来するものなのでしょうけれども。[2]

それで、アンソニー・ロビンズの方法を少し説明しておくと、米国には日本と同じように個別の家を訪問する飛び込み営業が居るわけです。それで、この営業、訪問先から門前払いを食らったりして営業が上手くいかなくて悩んでいる。そしてなんとか自信を持って訪問販売を続けたいと思っている。そこで、彼らが参加したのが「火渡り」ワークショップというわけです。

 もちろん、ここで論理的にモノゴトを考えられる人ならばこう考えるでしょう。「火渡り」が上手く言ったからといって訪問販売のスキルが上がったり、成績がよくなるなんてまったく関係ないでしょう?

 確かに、帰納法とか演繹法といった普通のロジカル・シンキングで使われるロジックで考えたらそのとおりです。しかし、人類学者のグレゴリー・ベイトソンが、米国プラグマティズムの父であるチャールズ・サンダー・パースの提唱した「アブダクション」というロジックを引用して語った方法を使うと不思議なこと、つまり認識の枠組みに何らかの影響を与え、思考や行動の変化が起ることになります。[3]
 
 例えば、自分が顧客の玄関で躊躇していることを克服するべき課題と考え、これを「火渡り」にマッピングする。そして、メタファーである「火渡り」で厚く燃え盛る炭火の上を裸足で歩く行為に成功することで、この課題を克服出来るリソースを得たとなるわけです。実際に「火渡り」の後に認識や行動が変化する人も出てくるでしょう。

 これに関連して、心理療法家のミルトン・エリクソン派の心理療法家であるスティーヴン・ランクトン氏のスライドの中に「Isomorphism[4]という概念について言及されています。これは心理療法で活用されるメタファーが人の認識や行動にどのような変化をもたらすのか研究された時に言及された、個人的な認識はベイトソンによって使われた概念です。
 
 メタファーはその人の同一性や同一構造を持った経験に無意識にマッピングされることになります。例えば、サザエさんを見た時に自分の立場がマスオさんだと思うのか?サザエさんだと思うのか?あるいはカツオと思うのか?あるいはまったく関係のない傍観者として見ているのかは?視聴者がほぼ無意識に行っているわけであり、これを完全にコトンロールすることは難しいということになります。

 それで、同一性の概念からすると「火渡り」を自分の克服するべき営業上の課題として 、参加者がIsomorphic にマッピングされたとすると、メタファーであるところの「火渡り」が成功すると現実である営業活動に自信や自己効力感などのリソースを持込み、現実に対する認識が変わるというわけです。もちろん、これは全ての人に有効だというわけではありません。例えば、非常に論理的にモノゴトを考える人で「火渡り」と「営業活動」の間になんら同一性で観察される関係性が発見できない人には何ら意味がない、ということになるわけです。

 その意味ではこれがメタファーの面白さでもあり、難しさでもあるのでしょう。

ちなみに2012年にアンソニー・ロビンスの「火渡り」ワークショップは事故を起こし火傷を負った人を21人も出したことが報告されています。[5]



個人的には参加者がこの火傷にあったという出来事をどのようなメタファーとして解釈したのか?は興味が尽きないところなのですが、少なくとも傍観者の視点からみたメタファーとして解釈すると何事も「過ぎたるは及ばざるが如し」ということのようにも思ってくるわけです。それに日本だと高い金を払って自己啓発ワークショップに参加しなくとも、ご近所のお寺でやってそうですし、こっちに参加したほうが地域活性化にもなりますし・・・(笑)。

(参考)


文献


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