2015年11月23日月曜日

もうひとつのIPの話



  組織・チームは、ひとつの生命体であり、ひとつのシステムである。だから、生き物としての全体に対処しなくてはならない。

 機械のように、都合の悪いところだけ交換して捨てるとはいかない。

   <ひとりごと>



IPとは何か?

 心理療法の一つである家族療法にIPという概念がある。

 IPというとIT業界の人間 は、'Internet Protocol'の略だと思ってしまうが、ここでのIPは ’Identified Patient ’の略である。[1]

 家族療法では家族を個々人で構成されるひとつのシステムとして見る。もっともマニアックに言えば、このシステムは、生命体としてのオートポイエーティックなシステムである。このシステムを維持するためにある個人が問題引き起こしていると考える。問題行動や機能不全を起こしているこの個人のことをIPと呼ぶ。

 例えば、子供が<いたずら>ばかりして問題行動を起こしている。しかし、本当の《原因》は両親、あるいは嫁姑の不仲という名前の《関係性》にあり、子供の問題行動は家族システムを維持するための単なる<現象>の一つに過ぎない、というわけだ。したがって、<現象>である子供の行動を修正してもシステム全体からの解決にはならない、というのが家族療法の考え方である。

 こういった発想は、もともと人類学者のグレゴリー・ベイトソンが心理療法の世界にノーバート・ウィナーらから起こるサイバネティクスを方法論として持ち込んだところから始まった、と個人的には理解している。


個人の問題は所詮、組織全体の問題の現象に過ぎない

 それで、IPという概念は、経営やプロジェクト・マネジメントのコンテクストでも重要だ。

 例えば、プロジェクトで特定のチームばかりにトラブルが発生する。局所的に、原因は、そのチームの個人の資質にあると考える。そして、問題のある個人を取り替える。これをもっとマニアックに言えば、単なる機械のような無生物なアロポイエティックなシステムとして扱う。

 結果、別の個人にまた同じことが起こる。あるいは、ある役割を担った特定の個人がこころの病になる。

 これが繰り返される。

どこにでもありがちなパターンである。もちろん、単にシステム論的な話であり、ベイトソンのダブル・バインドなどの原因仮説で説明できることで、オカルトでも何でもない。


 結局、プロジェクトで、家族療法でいうIPだけ、つまり<現象>だけを見て対処しても永遠に解決は訪れないことになる。家族療法のメタファーで言えば、いたずらっ子の背景には、もっと大きな組織、あるいはシステムの現状のパターンに問題の<原因>が潜んでいるという具合である。


個々人の問題は、システムのより大きな問題の現象として対処する


 但し、IPの問題行動という<現象>は、その背景にある生命体としてのシステム全体を理解するための窓口になる。もちろん、システムの平衡を維持しながら、別の次元への変化を起こすことは簡単ではないし[2]、いつも同じフレームワークや打ち手を使えばなんとかなるということでもない。

 しかし、少なくとも、IPの問題行動という<現象>を通じて、システム全体のパターンがどのようになっているのか?を観察し、適切な打ち手(家族療法の技法を含む)を考え抜いて、実行してみるということは、プロジェクトや経営のコンテクストでも非常に重要なことなのだと実感している今日この頃である。もちろん、システムは全体的に見るが、打ち手はレバレッジ・ポイントをついたセンスの良いやり方で、となる。


文献

[1]https://en.wikipedia.org/wiki/Identified_patient
[2]http://behavenet.com/first-and-second-order-change

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