2016年8月2日火曜日

ミルトン・エリクソンの系譜:戦略とは何か?


                                                                                                                             
 エリクソニアン・アプローチの本質の一つは<戦略的>。

     大事だからもう一回、

 エリクソニアン・アプローチの本質の一つは<戦略的>。

 
 <ひとりごと>



行動しながら変わる?

  <戦略>という言葉は何やら怪しげだ。マッキンゼーかボスコンあたりのコンサルタントが景色のよい高層の会議室で、ちょっと歳の行ったお偉さん相手にクソシンプルな事業計画でもプレゼンテーションしている、というイメージだ。

 そもそも、<戦略>の定義は何か?

 オックスフォード英語辞典を紐解くと以下のように記述されている。



A plan of action designed to achieve a long-term or overall aim.

長期的、もしくは包括的な目的を達成するために設計された行動計画。


 
 単純化すると認識的には、<戦略>は、<現状>と<理想の未来>の隙間を開くことだ。[1]  そして、<理想の未来>に向かって行動すること、あるいは促すこと。もちろん、理想に向かう道筋は複数ある。

 余談だが、この反対は現状維持だ。現状維持は今やっていることと同じことを将来もダラダラやっている。これが一番楽だからだ。しかし外的な環境変化が激しい場合、より逼迫した未来になるのは明らかだ。この状況はぬるま湯の温度が徐々に上がっても気が付かないで茹で上がる「茹で蛙」に喩えられる。

 心理療法家のミルトン・エリクソンの技法は<戦略的>だと言われる。もちろん、エリクソン自身は自分の技法を形式知的な体系として残さなかった。だから、<戦略的>というのはエリクソンの弟子や研究者が言っていることだ。だが、エリクソンの技法は誰がどう見ても<戦略的>であり、本質的には、戦略コンサルタントと大差ないような気もしている。もっとも、エリクソンの場合は変化のためには偶発的な出来事を利用するので<戦略的>行き当たりばったり、というのが正確かもしれないが(笑)。

 具体的に考える、ヘイリーの著作に以下のようなことが書かれている[2]
 
 

Therapy can  be  called  strategic  if  the clinician  initiates  what  happens  during  the therapy  and  designs  a particular approach for each problem.

He or she must identify solvable problems,  set  goals,  design  interventions  to  achieve  these  goals,examine  the  responses  he  receives to  correct  his  approach,  and ultimately  examine  the  outcome  of his  therapy  to  see  if  it  has  been  effective.

心理療法の間、臨床医がそこで起こることを手ほどきし、それぞれの問題について特定のアプローチを設計するとすれば、心理療法は<戦略的>であり得る。臨床医は解決可能な問題を同定し、ゴールを設定し、ゴールを達成するために介入を設計する、そのアプローチを修正するために反応を受け取る、そして最終的には、それが有効に機能していたかどうか、心理療法の結果を調べる。(Haley 1974 )



  ここでは、臨床医=エリクソンということだが、少なくともクライアントの認識の<現状>と<理想>の隙間を開き、<理想>に到達するためにはどうすればよいか?をクライアントと一緒に考え、それを指示するというのが<戦略的>だということなのだろう。少なくとも、傾聴だけするとかいうような受動的な態度ではない。心理療法家がもう少し積極的に攻めに言っている感じだ。

 さらに、ヘイリーの別の著作にこんな記述がある[3]

 

Action  must  happen  if  change  is  to  happen.  Nondirective  therapy  is actionless.  Therefore  nondirective  therapy  is  traditional  therapy.  In fact, the therapist takes pride in not telling the client what to do. With a strategic approach, it is assumed that conversation does not lead to change. Action must be taken if change is to happen. With a strategic approach,  the  therapist  must  prescribe  a  directive,  either  direct  or metaphoric. Where does one learn such directives? It is difficult to find training in giving directives.

変化を起こすためには、行動を起こさなければならない。非指示的心理療法は行動が伴わない。したがって、非指示的心理療法は昔ながらの心理療法である。事実、心理療法家はクライエントに何かをやるように指示しないことを誇りにしている。一方、<戦略的>アプローチでは、対話では変化を導けないことを前提としている。変化を起こすためには、行動を起こさなければならない。<戦略的>アプローチでは、セラピストは、直接的もしくは隠喩(メタファー)によって、クライアントに対する指示を処方しなければならない。そのような指示はどこで学べるのか?指示の与え方を教えてくれるトレーニングを見つけるのは難しい。(Haley  2004 , p.2)


 
  エリクソンと言えば、「催眠をかければなんでも解決」というような、ある意味安直な認識で誤解されているところがある、が現実はかなり違う。実際エリクソン自身が「催眠は、情緒的な雰囲気以外何も変えない」[4]と語っている。

 当然、ヘイリーも結局、(気持ちを変えて)実際に行動することでのみ変化が起こると非常に現実的に考えていた点は興味深い。


 エリクソンの事例で、人生に悲観して自殺しようとしていたすきっ歯の女性に、どうせ死ぬんだから、おしゃれな服を買ってきたどうか?すきっ歯を利用して好きな男性に水をかけてみてはどうか?とか逆説的介入を使って行動指示をする。で、この女性は実際に行動したから、その水をかけた男性と結ばれ、人生も変わったというオチになっていたわけだ。もちろん、この女性もエリクソンから指示されなければ自分ではそういった行動は思いつかなかったことだろう。逆説的介入は、戦略的なゴールとは反対側に走る戦術だ。ゴールに到達するために地球を反対側に回るというようなところがある。だが、戦略的にはきちんとゴールはロックオンされている。


 何れにしても、エリクソンの技法は<戦略的>であり、単純に催眠をかければ全て解決のような安直なものでないことだけは確かだ(笑)。<現状>と<理想の未来
>の隙間を開く、利用できる資源・資質(リソース)を理想になるために結びつける。行動を促す。エリクソンの技法としては、広義の Split & Linking だ。クライアントのために考えて、考えて、考えぬいて、そして理想を引き出し、そこへの介入を指示する。これが本当の意味でのエリクソニアンということなのだろう。[5]



(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/07/blog-post_14.html
[2]https://www.amazon.co.jp/dp/0393310310/
[3]https://www.amazon.co.jp/dp/1138987549/
[4]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/06/blog-post_56.html
[5]http://ori-japan.blogspot.jp/2012/06/blog-post_24.html

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