2016年11月4日金曜日

ミルトン・エリクソンの系譜:アフリカスミレの女王の楽屋裏(その2)


                                                                                                                          
 変化は、そうせざるを得ない状況にハマった時に訪れる(笑)。

 <ひとりごと>



我を忘れて状況にハマる

  備忘録として書いておく。 

昨日の続き。

蔵書の中からエリクソニアンのスティーブン・ギリガンの「The Courage to Love: Principles and Practices of Self-Relations Psychotherapy」[1]をめくってみる。


The first identity is what we might call the problem-based, dominant identity. Traditional therapy would primarily understand and communicate with the person around this identity. But Erickson noticed the second two identities what she was doing when she was not depressed (or who she was in addition to being depressed). 

He then became curious about how new patterns might emerge via those complementary identities. He got the woman to raise more African violets. He then asked her to notice each time a  person or family in the church community was going through some important transitional event a  birth, death, marriage, graduation, retirement, etc. and to give that person or family an African violet to honor the event.

一つ目の(孤独で鬱で受動的な)アイデンティティは、問題に基づく、従属的なアイデンティティと呼んでもよいかもしれない。伝統的な心理療法では、はじめに、このアイデンティティを中心に理解しコミュニケーションを行う。しかし、エリクソンは、その他の2つ(教会の敬虔な信者、アフリカスミレを育てる人物)というアイデンティティとして活動している時は鬱状態ではない(あるいは、鬱に加えて別の状態にある)ことが分かっていた。

そして、エリクソンはその他2つのコンプリメンタリーなアイデンティティを介して新しいパターンをどのように出現(創発)させるか?に好奇心が湧いた。エリクソンは、そのご婦人にアフリカスミレを育ているように言った。さらに、教会のコミュティの人々やその家族の、出生、死亡、婚姻、卒業、退職などいつかの人生の過渡期の重要な出来事を称えるために、それに気づいた時にはいつでもアフリカスミレを送るように依頼した。

 
  注意したいのは、これは、エリクソニアンのギリガンの解説であってエリクソン自身による解説ではないことだ。ギリガンは、ベイトソンにも師事しているので必然的にベイトソン風の説明になるのだろう。

 結論を大まかにいうと「問題を起こしている人格を補完する人格で活性化する、あるいは問題のパターンを崩す」となる。このあたりの話は、グレゴリー・ベイトソンのこのあたりと関連がある[2]
 
 ギリガンの説明を借りると、エリクソンは、ご婦人の鬱で孤独だという人格に対して、残りの2つの副次的な人格がコンプリメンタリーな関係を構築するにはどうしたらよいのかを考えた。

 こういう見立てから仮説を構築して、具体的な介入を考えることになる。

 「Ericksonian Approaches 」[3] に以下のような記述がある。おそらくエリクソンが実際に指示した内容に近い。で、エリクソンの介入は瞬発力に満ちているように思えてくる(笑)。


I called one evening. The house keeper and maid had left for the day. I identified myself very carefully. She was very passive , and I demanded a tour of her home. She was sufficiently  passive to permit me to have a guided tour. She led me from room to room .

私(エリクソン)はある晩立ち寄った。ハウスキーバーとメイドはその日は留守にしていた。私は、自分を非常に慎重に自己認識した。彼女は、非常に受け身で、私は彼女の家を見せてくれるように要望を出した。彼女は充分に受け身だったので家を案内することを許可した。彼女は、部屋から部屋へと案内した。

I looked very carefully for everything. In the sun room I saw three adult African violets of different colors in full bloom , and an potting pot in which she was propagating another African violet.

私は、すべてを注意深く見た。サンルームで、他の花から株分けして培養した3苗の色の違ったアフリカスミレが満開なのを見た。

Now, you know , African violets are very delicate plants. they are very easily killed by the slightest amount of neglect.

さて、ご存知のように、アフリカスミレは非常にデリケートな植物だ。この植物はほんの少し世話を怠ると枯れてしまう。

When I saw those three African violets of different colors I said, " I'm going to give you some medical orders, and I want them carried out. Now you understand that. Will you agree that you will carry them out?" She passively agreed. Then I said, " Tomorrow you send your housekeeper to a nursery or a florist and you get African violets of all different hues." I think at that time there ware 13 different hues of African violets. I said , " Those will be your African violets and you are going to take good care of them. That's a medical order".

私は、三種類のアフリカスミレを見た時、「私はあなたに、いくつかの治療の注文を与えるつもりです、そして私はアフリカスミレを運びだして欲しいのです。今まさにあなたは分かっています。それを運び出すことに同意していただけますか?」と言った。彼女は、消極的に同意した。そして、私は「明日、ハウスキーバーを花屋へ行かせて全ての色のアフリカスミレを手に入れてください」と言った。今の時点では13種類の違う色のアフリカスミレがあったはずだ。私は、「それらはあなたが世話をするのによいアフリカスミレになるでしょう。これは治療的な注文です」といった。

"Then you tell your housekeeper also to purchase 200 flower pots and 50 potting pots and potting soil. I want you to break off a leaf from each of your African violets and plan it in potting pots and grow additional mature African violets." They propagate by planting the leaf.

「そして、あなたはハウスキーバーにさらに200個の花鉢と50個の苗床用の鉢、それと用土を買ってくるように頼んでください。それぞれのアフリカスミレから葉を切って、それを苗床用の鉢で増やして欲しいのです」アフリカスミレは葉を植えることで増えます。

I said, "And when you have an adequate supply of African violets, I want you to send one to every baby that's born in any family in your church. I want you to send an African violets to the family of every baby christened in your church. I want you to send a gift adult African violet to everyone who is sick in your church. When a girl announces her engagement, I want you to send her an African violet. When they got married , I want you to send African violets. In case of death, you send a condolence card with an African violet. And the church bazaars --- contribute a dozen or a score of African violets of sale. " I knew at one time she had 200 adult African violets in her home.

私は、「あなたが充分な供給量のアフリカスミレを持った時、私は、教会関係の家族に子どもが生まれる毎にそれを贈って欲しいのです。私は、教会関係の子どもが洗礼名を受ける時アフリカスミレを贈って欲しいのです。私は、教会関係者が病気になった時も成長したアフリカスミレを贈って欲しいのです。女子が婚約した時、アフリカスミレを贈って欲しいのです。結婚する時、アフリカスミレを贈って欲しいのです。ご不幸があった時、弔電と一緒にアフリカスミレを贈って欲しいのです。教会でバザーがある時、販売のために何十個ものアフリカスミレを寄付して欲しいのです」私は、一度にそのご婦人が家に200鉢ものアフリカスミレを抱え込んだことを知っています。


Anybody that takes care of 200 African violets is too busy to be depressed. She died in her seventies with the title of "The African Violet Queen of Milwaukee." I saw her only once.(Erickson laughs.)

どんな人でも200ものアフリカスミレを世話することになったら忙しくて鬱になる暇もありません。彼女は七十歳代でなくなった時に「ミルウォーキーのアフリカスミレの女王」という称号で呼ばれました。私は彼女には一度あったきりです。(エリクソンは笑った)。


 
ここで、面白いのはエリクソンがご婦人に、意識で処理していたのではオーバーフローするくらいの大量のタスクを突然与えていることだろう。最初は数鉢程度のアフリカスミレが突然200鉢以上に増え、ご贈答品工場の様相を呈し始めたことだ。ある意味エリクソンの無茶ぶりだ。

 ご婦人は、まるで、突然家に柴犬を100匹預かった、というようなテンパった状況になる(笑)。かといって、このご婦人は、アフリカスミレの世話をすることは嫌いではない。また、教会といっても信者やその家族は何百、何千といるだろうから、出産、結婚、弔辞とひっきりなしに出来事は続く。その度にアフリカスミレを送るのだろうが、送った分また鉢を購入して、アフリカスミレを育てるという活動は継続されることになる、という具合だ。

 かといって一度はじめて軌道に乗ってしまうと、今度はなかなか止めることもできない。こうやって、うつ状態になる暇もないほどこのご婦人の生活パターンは変わっていくことになる。ある意味自分の意思というより、エリクソンにそうせざるを得ない状況に引きこまれたというのが真相のように思える。もちろん、このご婦人もこういう状況にハマるのもまんざら嫌でもないという具合だ。

 しかも、この話のオチは、エリクソンがこのご婦人にあったのは、この指示をした1回きり、この顛末を聞いたのはご婦人が亡くなった後ということになる。その意味、非常に落語的であるのは間違いない。

 実はエリクソンから学ぶのは、そうせざるを得ない状況をつくりだす、演出家として能力のようにも思ってくる。

(つづく)

文献
[1]https://www.amazon.co.jp/dp/0393702472
[2]http://ori-japan.blogspot.jp/2011/11/blog-post_12.html
[3]https://books.google.co.jp/books?id=elsgBQAAQBAJ&pg=PT464


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