2017年2月18日土曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 49日目


                                                                                                                            
 「ダブル・バインドを自分の利益誘導のためだけに使うと失敗する」

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 <ひとりごと>



はじめに

 お正月から、心理療法家ミルトン・エリクソン(1901-1980)の論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] 全2,648ページを1日8ページのペースで読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 それで、今日は49日目の進捗等についての備忘録を書いておきたい。

2つのダブル・バインド

 今日読んだのは、「Varieties of Double Bind(1975)」というタイトルの論文。エリクソンは1901年12月に生まれ、1980年3月に亡くなる。論文が発表された1975年は晩年に近い。当時、新進気鋭のアーネスト・ロッシをパートナーに迎え The American Journal of Clinical Hypnosisに掲載された論文はエリクソンのかなり完成形の技法を反映していたと考えても差し支えないだろう。もちろん、エリクソンは亡くなる直前まで進化し、現在も後継者によって進化し続けている・・・・

この論文は「Hypnotic Realities」や「Complete Works 1.0」に収録されており、幾度となく読んでいる。本当のことを言うと、座右の銘だ。何回読んでも新しい気づきがあり、味わい深い。現在、この論文が収録されたロッシとの共著の「Hypnotic Realities」[2] は「催眠の現実」として2016年に邦訳、出版されている。したがって、当該論文を含め日本語で読むことが可能だ。

《2つのダブル・バインド》
 
 ざっくり説明すると、ダブル・バインドは2つある。一つは原因仮説、つまり「Why」としてのダブル・バインド、もうひとつは治療技法、あるいはプロセス、つまり「How 」としてのダブル・バインドだ。前者は、ベイトソンらによって理論家された「統合失調症的ダブル・バインド」であり、後者は、エリクソンによって実践された「治療的ダブル・バインド」だ。原因仮説のダブル・バインドは、統合失調症の原因は必ずしもそれだけとは限らないという意味で、現在は大分怪しくなってきている。逆に、技法としての治療的ダブル・バインドは現在でも有効だ。クライアントに二項対立を意識してもらい、クライアントをトランスに導く、あるいは現状の枠組みから出てもらって新しい認識を得それを従来とは違うパターンの行動に導く、このためのダブル・バインドだということだ。

 また、この論文では、治療的ダブル・バインドのバリエーションと事例が説明されている。

《幼少の話から》

 エリクソンの論文に共通することだが、幼少の頃のエピソードが始まる。エリクソンの実家は農家を営んでおり、牛や豚や鶏を飼っている。エリクソンが父の言葉からダブル・バインドに気づくエピソードや、どうしても納屋に入らない牛を納屋に入れるために牛の尾を納屋と反対方向に引っ張る有名なエピソードが紹介されている。ここからエリクソンは以降のダブル・バインド技法の前身のような方法を思いつく。

 また、実証主義者のエリクソン自身によって語られた以下の言葉は重い。


It took me a long time to realize that when the double bind was used for personal advantage it led to bad results. 

 ダブル・バインドを個人的な利益のために使うと悪い結果をもたらすことに気づくのに随分時間がかかりました。


 これは、決して精神論やお説教というより、自分で色々試した結果、発見した真理ということだろう。やはり、自分の都合を相手に押し付ける技法として、ダブル・バインドを用いるべきではない。逆にいうと、相手の利益になり、結果、自分の利益にもなる、という方向で使う必要があるということなのだろう。現在、ブリーフ・セラピーカンファレンスでは1つは倫理として、もう一つは、局所的な利益を追求しないシステム思考の話として取り扱われているように思う。


《事例》

 今日読んだところでは、3つの事例が掲載されている。一例目は、26歳の心理学の修士号を持った男性だが、爪を噛む癖が治らない男性。ニ例目は、おねしょの治らない12歳の少年の話。三例目は、エリクソンの息子のラルが8歳くらいの時の話。

 細かいことは書かない。が、ここでのポイントはトランス誘導の方法として、あるいは介入として治療的ダブル・バインドを使っており、エリクソンがどのような状況でどのようなことを言ったのか?が記録されている点だろう。エリクソンがクライアント認識、あるいは行動を変化に導いたカギは、治療的ダブル・バインドにある、ということだ。



考察 

 ここから学ぶのは3つだ。

 一つは、エリクソンは催眠誘導と治療的反応を引き出す手段としての二項対立の状況をつくるためにダブル・バインドを使った。このあたりはギリガンの「The Legacy of Milton H. Erickson Selected Papers of Stephen Gilligan 」に詳しい。

 2つは、エリクソンは催眠が覚めた後に、思考の枠組みや行動を変化させるために治療的ダブル・バインドを使った。これは、単に催眠誘導だけ成功しても覚めた効果の持続する思考や行動の変化は導けないことを表している。有名な事例として、おねしょが治らない少年や爪を噛むことを辞めない男性が出て来るが、裏ではきちんと治療的ダブル・バインドの介入を行っている。論文では具体的な治療的ダブル・バインドの「呪文」が掲載されている。

 3つめは、エピソードに囚われてはいけない、ということだ。エリクソンは話の内容が面白くつい話の「コンテンツ」に囚われてしまう。裏ではかなり緻密な介入を行っているのだが、どのような状況で、どのように見立て、どのように介入したのが、具体的な治療的ダブル・バインド「呪文」を唱えているのか?を読み解く必要がある。

2月18日の進捗、392ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 14.8%) 

Volume 1  : The Nature of Hypnosis and Suggestion

Varieties of Double Bind 
Milton H. Erickson and Ernest L. Rossi Reprinted with permission  fromThe American Journal of Clinical Hypnosis, January 1975, 17, 143-157.



(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html
[2]http://ori-japan.blogspot.jp/2014/03/hypnotic-realites.html



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