2017年2月23日木曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 54日目


                                                                                                                            
   正論を言っても、抵抗を受ける。

 そこには、「おまえら、なんでこんなに簡単なことも分からないんだよ!」

 の含み、つまりメタ・メッセージがあるからだ(笑)。

 <ひとりごと>



はじめに

 備忘録として、

 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 今日は、54日目について書いておきたい。


間接暗示の形式

 今日は、「Indirect Forms of Suggestion(1976)」から。

 エリクソンは1980年に亡くなるので、かなり晩年のエッセー。エリクソンは、1957年に催眠を臨床等への応用を行う学会である The American Society of Clinical Hypnosis[2] を設立するが、このエッセーはその学会の1976年に開かれた28回目の年次総会で発表された内容だ。アーネスト・ロッシとの共著となる。

 エリクソンのスタイルの特徴はこのあたりに書いた。細かい話として直接暗示ではなく、間接暗示を多用する、ということがある。要は、暗にほのめかす、とか「含み」を持って話すということだ。欧米の文化を勉強すると、安直に「自分を強く主張しろ」というようなことが語られるが、光が強くなれば影も濃くなるのように、自分の主張を押し付けると相手の抵抗が強くなるのは万国共通ということだ。

 これは、トランプ大統領のコミュケーションを見ると分かることだ(笑)。相手に明示的な統合失調症的なダブル・バインドを仕掛けるために計算づくでわざとやっている。左のメディアやリベラル派はまんまとひっかかる。そして、発症する。が冷静な共和党主流派はこれにのらずに粛々とトランプ降ろしを始めている。追記だが、カリフォルニア大学バークレー校の教授で認知言語学者のジョージ・レイコフがトランプのツイッターの特徴タクソノミーというタイトルをつけて4つに分類しているのが面白い。おそらく、レイコフは認知言語学のカテゴリー化とプロトタイプの理論でトランプの言語パターンを見ているのだろう。本人が認識している何かを別のカテゴリーに入れることはリフレーミングの基本でもある。

 これとは反対に、エリクソンは間接的に示唆するような形式で話をする。例えば、エリクソンの場合は治療的ダブル・バインドとなる。これがいわゆる間接暗示 (indirect suggestion)である。これは、仕事や日常の場面でも相手の抵抗を予め織り込んで、抵抗を回避する形式で話すという意味ではコミュケーションの手段とて現在でも効果的だ。要は、とても上手いメタ・コミュケーションのやり方ということになる。抵抗の扱いをリスク・マネジメントの枠組みをアナロジーとして考えると4つの方向性が考えられる。それは、①低減、②移転、③回避、④受容である。

 この何れかを達成するには、基本的には、現状から理想の状態を示唆するように、戦略的に、相手の抵抗が阻害要因ならないように対人コミュケーションに注意して、曖昧な粒度を正確に保って、曖昧なことを精緻に話すというようなスタイルとなる。

 さて、内容を少々、


(1) Indirect suggestion permits the subjects individuality, previous life experience, and unique potentials to become manifest; (2) the classical psychodynamics of learning with processes like association, contiguity, similarity, contrast, etc., are all involved on a more or less unconscious level so that (3) indirect suggestion tends to bypass conscious criticism and because of this can be more effective than direct suggestion. 

(1)間接暗示は、被験者個々人の過去の人生の経験や、ユニークな潜在能力を明らかにする。(2)関連、連続性、類似性、対比などのプロセスを用いた学習の古典的な精神力学は、多かれ少なかれ無意識レベルに関与しており、(3)間接暗示は意識的な批判を迂回する傾向があり、直接暗示より効果的である。


 エリクソンは問題解決のために被験者が持っている能力を見つけ、それを活性化するような方向で心理療法を行う。もちろん、過去の経験から、「そんなことは無理だ」「散々失敗してきた」のようなことでも、クライアントに「今度はこうやれば上手くいくかも」というような方向に向いてもらえるようなやり方で進める。ここで使われるのが間接暗示ということになる。

 エリクソンはトランス誘導と間接暗示のミクロな動力学を以下の5つのプロセスとした
(1) the fixation of attention, (2) depotentiating conscious sets and habitual frameworks, (3) unconscious search, (4) unconscious processes, and (5) hypnotic response. 

(1) (知覚の)注意の固定化
(2) 意識的なセットあるいは習慣的な認識の枠組みを弱める(意識の判断を緩める)
(3)  無意識による検索
(4) 無意識のプロセス
(5) 催眠的な反応

この各プロセスに具体的な技法がマッピングされる

 さらに、ここで説明されているのは以下の14の間接暗示のカタということになる。面倒なので原文のママ(笑)。
1.Indirect Associative Focusing
2.Truisms Utilizing Ideodynamic Processes and Time
3.Questions That Focus, Suggest, and Reinforce
4.Implication
5.Therapeutic Binds and Double Binds
6.Compound Suggestions: Yes Set, Reinforcement, Shock, and Surprise 7.Contingent Associations and Associational Networks
8.The Implied Directive
9.Open-Ended Suggestions
10.Covering All Possibilities of Response
11.Apposition of Opposites
12.Dissociation and Cognitive Overloading
13.Other Indirect Approaches and Hypnotic Forms
14.Discussion

今日の範囲だと 5の治療的バインドとダブル・バインドあたりまで。備忘録なので細かいことは書かないが、言語パターンとその解説となっている。
 
考察 

 エリクソンの話す言葉の理解には1)統語論、2)意味論、3)語用論の3つを立てて、可能であれば三重に記述するのが望ましい。詳しい話はこのあたりで書いた。ただし、簡易的に意味論について現在の認知言語学ではなく少し古い一般意味論からはじめてみるのがよいのかもしれない。詳しい話はこのあたりで書いた。

 一般意味論には3つの原則があった。
 
つまり、a)地図は領土ではない b)地図はすべての領土を表していない、c)地図は地図を参照できる。ここで地図は言葉、領土は現実のメタファーということになる。要は、言葉が知覚や認知や感情や振る舞いにどのように影響を与えるのか?というかなり広く取られた話になってくる。詳しい話はこのあたりで書いた。エリクソンの間接暗示を考える時は、

  • 言葉で現実をどう示唆しているのか?
  • 部分と全体の関係をどう示唆しているのか?
  • 現実ではなくどのように概念に注意を向けているのか?
    • そこに何らかの区別を付けているのか?
    • あるいは意図的に混同させているのか?
を見たてることで少しはエリクソンの技法を理解する上での補助線になるのだろう。

 エリクソンを理解する上ではやはり何らか認知科学なりサイバネティクス的なモノサシや補助線は必要だ。

2月23日の進捗、432ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 16.3%) 

Volume 1  : The Nature of Hypnosis and Suggestion

Indirect Forms of Suggestion 
Milton H. Erickson and Ernest L. Rossi A portion of this paper was presented at the 28th Annual Meeting of the Society for Clinical and Experimental Hypnosis, 1976, under the title Milton H. Ericksons Approaches to Trance Induction.




(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html
[2]https://www.asch.net/

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