2017年2月24日金曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 55日目


                                                                                                                            
   ミルトン・エリクソンに「教え」はない、ただ「学び」があるだけだ(笑)。

   それで、エリクソンからの「学び」は押し付けがましさがないことだ(笑)。

 <ひとりごと>



はじめに

 備忘録として、

 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 今日は、55日目について書いておきたい。

 ここまで読んだ感想は非常にシンプルだ。エリクソンは押し付けがましくない。これに尽きる。つまり、あまり教えらしい教えというものがない。感謝が大事だの、愛が大事だの、勇気が大事だのと空中戦にならないのもエリクソンの技法の特徴だ(笑)。かならず事実なりそこで起こっている随意、不随意の動作なりから始める、だから、心理的なものを謳っている一般的にありがちな押し付けがましさがまったくない。愛が大事だとか、勇気が大事だとかはクライアント一人一が自分で決めればよいということだ。状況に応じては、感謝や愛や勇気もそれを押し付ければ、何かを学ぶことの抵抗になるということだ。

 やっていることはただ、何か自律的、あるいは不随意で動いている身体などの事実だけをまずは描写し、それから、ちょっと違う、別の動きなり心身状態に結びつけるようなことだけをやっている。もっと正確にいうと、そこに関係性があるように示唆しているだけだ。しかも、こういった動きはだいたいサイバネティックスのポジティブ・フィードバック・ループで関連付けられていることになる。つまり、何かをすればするほど、もっとこうなるという具合。だからエリクソンの技法は非常に自然な感じで使われる。


間接暗示の形式

 今日は、「Indirect Forms of Suggestion(1976)」の続きから。

 エリクソンは1980年に亡くなるので、かなり晩年のエッセー。エリクソンは、1957年に催眠を臨床等への応用を行う学会である The American Society of Clinical Hypnosis[2] を設立するが、このエッセーはその学会の1976年に開かれた28回目の年次総会で発表された内容だ。アーネスト・ロッシとの共著となる。

 エリクソンのスタイルの特徴はこのあたりに書いた。細かい話として直接暗示ではなく、間接暗示を多用する、ということがある。要は、暗にほのめかす、とか「含み」を持って話すということだ。欧米の文化を勉強すると、安直に「自分を強く主張しろ」というようなことが語られるが、光が強くなれば影も濃くなるのように、自分の主張を押し付けると相手の抵抗が強くなるのは万国共通ということだ。

 それで今日の範囲は、5の治療的バインド、ダブル・バインドから10の反応の全ての可能性のカバーのところとなる。

1.Indirect Associative Focusing
2.Truisms Utilizing Ideodynamic Processes and Time
3.Questions That Focus, Suggest, and Reinforce
4.Implication
5.Therapeutic Binds and Double Binds
6.Compound Suggestions: Yes Set, Reinforcement, Shock, and Surprise 7.Contingent Associations and Associational Networks
8.The Implied Directive
9.Open-Ended Suggestions
10.Covering All Possibilities of Response
11.Apposition of Opposites
12.Dissociation and Cognitive Overloading
13.Other Indirect Approaches and Hypnotic Forms
14.Discussion


興味は尽きないが、細かくやっていくときりがないので要点だけ書いておく。例えば、5の治療的バインド、ダブル・バインドの話。言語パターンとして以下が登場する。声に出して読むこともできるし、黙読することもできる、音の感じを愉しむこともできるし、浮かんでくるイメージを愉しむことも、論理的に構造を考えることもできる。


You don’t even have to listen to me because your unconscious is here and can hear what it needs to, to respond in just the right way.


 here とhear が韻を踏んでいたりもするのだが、全体的な言葉の構造により被験者はバインドされていることになる。具体的には、

  • 意識で聞いてなくても無意識がここにあって必要なことは聞いている
  • どんな反応でも、無意識でちょうどいい具合に反応している
  • だから、何をやっても、何もやらなくても、それは適切だ

 だいたいこんな感じになる。だから反応しなくても適切、どんな反応をしても適切、といった形式でバインドされていることになる。だから、何をやってもOK、何もやらなくてもOK、そんなメッセージが暗黙的に伝えられる。もちろん、状況設定やセラピストとクライアント間のラポールがあっての話となる。

 大体こんな粒度で読んでいる。
 
考察 

 さて、グレゴリー・ベイトソンは何かを観察する時、二重記述、多重記述せよ、と言っている。[3] これに学ぶとエリクソンの言語パターンもそうして観察する必要があるのだろう。個人的には、1)統語論、2)意味論、3)語用論で三重記述しているところはある。学びは恐ろしいほど深くなる。

 この中で、2)の意味論については、個人的には認知言語学もしくは一般意味論で記述しているところがある。2つはまったく別の概念だが、おそらく一般意味論から始めたほうが分かりやすい。個人的には単なる三重記述の道具としてだけ使っている。

 一般意味論に構造微分という人の知覚、認知のモデルがある。[4] 簡単にいうと、a) 外的世界の出来事が起こる b) 五感でそれを知覚する c) それに言葉のラベルを貼る d) 言葉を記号として推論する、e) もっと抽象度の高い意味や法則をつくる。のようなプロセスを表している。

 こういった一般意味論の視点でエリクソンの言語パターンを分析した著作に「Hypnotic Language: Its structure and use 」[5] があるが、この枠組みを当てはめてエリクソンの言語パターンなり技法なりを見てみるのも面白いだろう。もちろん、最終目的は三重記述をすることになるので、その一つの視点を得ることではあるのだが・・・・・

 それで、この著作の必要の重要な要点は一つだ。知覚出来る事実の話をしているのか、知覚できない概念の話をしているのかを区別する。これで、エリクソンの言語パターンを読んで見るのも面白いだろう。言い忘れたが「空中戦」の定義だ。一般意味論に、「地図は地図を参照できる」というのがあった。つまり、最初は事実に基づいてつくられた概念のようなものをこねくり回す、つまり記号操作して新しい概念をつくることができるということだ。良い面もあれば、悪い面もある。このプロセスは無色透明だ。これをここでは「空中戦」と言っている。

2月24日の進捗、440ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 16.6%) 

Volume 1  : The Nature of Hypnosis and Suggestion

Indirect Forms of Suggestion 
Milton H. Erickson and Ernest L. Rossi A portion of this paper was presented at the 28th Annual Meeting of the Society for Clinical and Experimental Hypnosis, 1976, under the title Milton H. Ericksons Approaches to Trance Induction.




(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html
[2]https://www.asch.net/
[3]http://link.springer.com/chapter/10.1007%2F978-1-4020-6706-8_6
[4]https://en.wikipedia.org/wiki/Structural_differential
[5]https://www.amazon.co.jp/dp/B005R10YKS/

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