2017年2月26日日曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 57日目


                                                                                                                            
 一見、不思議なことは、

 だいたいタネも仕掛けもある話(笑)。

 タネがわかると手品は手品ではなくなる。

 <ひとりごと>



はじめに

 備忘録として、

 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 今日は、57日目について書いておきたい。

 内容は、「間接暗示による腕浮遊のトランス誘導」。間接暗示というのがミソだ。なぜ、こんなことをするのか? 

 目的は、催眠自体に対する抵抗が強い人向け。あるいは、トランス状態に入りにくい人向け。こういう人までを対象にして、クライアントのいままでの思い込みを緩めて新しい何かを「学習」し易い心身状態であるトランス状態に導く。そのために何事にも批判的な「意識」に大人しくしてもらう。例えば、「うまくいきっこない」「あれもこれも無理だ」「今までできなかったので今後も無理だ」、内部対話としてのこういう批判的な意識に大人しくなってもらう。「もし、何も制限がないとしたら?」「どうすればできる?」のようなアイディアを無意識に考えられる状態に導くためだ。トランス状態では二項対立も対立していない状態となる。ある意味パラドクスの存在を受け入れられる状態でもある。もちろん、その前段階にある「催眠とかトランスって、そもそも気持ち悪い!」という抵抗も回避する。このための間接暗示や間接的技法ということになる。

 もちろん何をするかについてクライアントとの合意と要望の尊重は必要だ。また、達成されるべきものは、クライアントの思い描くゴールでトランス誘導ではない。

 いくつかの前提がある。この表この表で書いたが、エリクソンの技法はステージ催眠のようなテレビで催眠術師がやっている催眠術とは無縁だ。これは古典催眠と読み替えてもよいかもしれない。ここで書いたが、エリクソン自身が「臨床催眠をやりたいならステージ催眠術師には師事してはいけない」とまで言っている。

 実際にエリクソンの催眠は、古典催眠ではなく、表の真ん中の学術的な標準的アプローチから始まる。そして表の右側のエリクソニアン・アプローチ(現代催眠のひとつ)を進化・深化させていくというのが論文全体に流れる大きな物語だ。これは、物事を、例えば「古典催眠 vs 現代催眠」のような二項対立で見てはいけないという示唆のようにも思えてくる。こうならないためにはベイトソンにならい、観察し、二重記述、多重記述する必要がある。仕事や日常でも大いに役立つことだ。実際、上の表も三重に記述されている。


間接暗示と腕浮遊

 今日は、「 Indirect Forms of Suggestion in Hand Levitation」から。1976-1978のエリクソンのほぼ晩年にアーネスト・ロッシに語られた内容のメモ。観念運動を利用したトランス誘導の一つだ。

 これに関連して、間接暗示による腕浮遊のトランス誘導をYoutubeで視聴することができる。今日のメモ内容はこの映像が全てだ。この映像のトランスクリプトはエリクソンとロッシの共著「Experiencing Hypnosis」[2](未邦訳)にエリクソンとロッシの解説付で掲載されている。学術的な記録なので非常に地味だが、逆に至るところにいぶし銀のような技法が散りばめられおり分かる人にはたまらない映像だ。結局、間接暗示は普通の人が聞いても意識に登らない。本当にクライアントの治療的な変化を指向した催眠は意識に上がらないので見ても限りなく地味だということになる。

 逆に、手品の種明かしのように、意識してみるのも面白いだろう。例えば、「この誘導でエリクソンは何回ダブル・バインドを使ったか?」「その種類は何か?」、意識して視聴してみる。要は、メッセージの背景にある、メタ・メッセージは何か?エリクソンはどのようにクライアントとメタ・コミュケーションしているか?その意味ではエリクソンを学ぶには最適な映像だ。この映像を入り口と呼ぶにはあまりにも深い。

 逆に言うと、エリクソンを学ぶのに古典催眠から学び始めるという発想はあまりにも明後日過ぎる。理由は体系やその前提となる枠組みがまったく違うものだからだ。「臨床催眠をやりたいならステージ催眠術師には師事してはいけない」エリクソンがこう言うのも理解できるわけだ。



 さて、この映像は、1958年にエリクソンがスタンフォード大のアーネスト・ヒルガードとジェイ・ヘイリーの元を訪れ、ヒルガードの秘書のルースという名前の女性を相手に行った腕浮遊によるトランス誘導とリバース・セットのデモンストレーションの記録だ。冒頭登場し、エリクソンにルースを紹介している男性がヒルガードだ。これから約18分ほどかけてトランス誘導が行われ、その後15分ほどかけてリバース・セットのデモが行われる。当然、間接的な技法や間接暗示が使われている。

 エリクソンの催眠誘導は通常30分〜1時間かけてゆっくり行われる。逆に言うと5分で誘導とか瞬間誘導とかのネットの情報はあてにしないほうがよい。ここでは、当然、いきなりリバース・セットとはならずイエス・セットから始まるが、そのあたりの営業トレーニングなどで教えられているイエス・セットがいかに薄っぺらいものであるのが分かるのもこの映像の面白いところだ。

 余談だが、翌年の1959年に、スタンフォード大のご近所に短期療法、家族療法で有名なMRI(Mental Research Institute)が開設される。

 今日の内容を少しメモしておく。

  • クライアント一人一人を観察する。それぞれの世界観を尊重する
  • トランス状態は日常的に経験しており、これを利用する
  • クライアントの事実認識の中に間接暗示を編み込む
  • 「おそらく」を使い断定を避ける
  • 無意識の反応を利用する
  • 無知の知を使う。セラピストは愚かな賢人
  • 複合暗示を相互に強める(ポジティブ・フィードバック・ループで)
  • 継続している振る舞いを使って知覚の焦点を変える
  • トルゥーイズムと間接的技法
  • 複数の選択肢の提示
  • 気をそらすための二重の暗示を使う

考察 

 エリクソンは地味だ。おそらくあまり関心がない人が映像を見ていても何をやっているのか理解できない。もちろん、間接的な技法や間接暗示は本来そういうものだから、ある意味成功しているとも言える。要は、クライアントがゴールを達成できればよいことだ。通常エリクソニアンが書いた著作だと目的は「Therapeutic Change 」と書かれていることが多い。要は、「治療的な変化」がゴールであって、トランス誘導は単なる手段の一つでしかないということだ。

2月26日の進捗、456ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 17.2%) 

Volume 1  : The Nature of Hypnosis and Suggestion

23.  Indirect Forms of Suggestion in Hand Levitation 
Milton H. Erickson and Ernest L. Rossi 




(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html
[2]http://ori-japan.blogspot.jp/2012/07/blog-post_25.html


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