2017年2月28日火曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 59日目


                                                                                                                            
 エリクソンの地道な研究・実証から伺えるのは、

 クライアントの利益が第一、という態度だ。

 <ひとりごと>



はじめに

 備忘録として、

 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 今日は、59日目について書いておきたい。

催眠による悪影響の調査と検証

 今日は、一本目の「Possible Detrimental Effects Of Experimental Hypnosis」から。1932年に投稿された論文。

 エリクソンは31歳。

 米国では、この年に大統領選挙が行われた。現職、共和党のハーバート・フーヴァーが破れ、後に日本との開戦時の大統領となる民主党のフランクリン・ルーズヴェルトが当選。

 日本では5.15事件が発生し首相の犬養毅が暗殺された。帝国海軍陸戦隊と蒋介石国民党軍との間で第一次上海事変が勃発。前年の満洲事変から満洲国が成立。政党政治が弱体化し軍部が台頭し日米戦の萌芽が見られる時代に書かれた論文だ。まだ、メーシー会議は開かれてはおらず、サイバネティクスの影響はない。このあたりの時代背景を頭の片隅において読む。もちろん、最新の研究では何か異なる主張や結論付けがあるのかもしれない。

 この論文の要点は以下だ。

 当時も今も、催眠(現象)については偏見が多い。1932年だと今より偏見は大きかったのかもしれない。エリクソンが催眠に関する悪影響について調査研究を行う。要は、催眠というキーワードだけで何か怖いものという認知バイアスがかかるためだ。具体的な内容は以下の4点。

催眠下で、
①自分に不都合で受け入れ難い後催眠暗示を簡単に受けれてしまうのではないか?
②暗示を受け入れると、その後人格が変わってしまうのではないか?
③暗示を受け入れると、その後現実と妄想の区別がつかなくなるのではないか?
④暗示を受け入れると、その後本人の意図しない不都合な振る舞いをするのではないか?

 エリクソンは文献を調査するが、これらが起こることは発見していない。また、実際に約300人の被験者についてのべ数千回のトランス誘導を行い、4〜6年間継続したが悪影響は起こらなかったと報告している。具体的には、表の真ん中の標準的催眠で実証実験を行う、結果は以下だ、

①'催眠下でも暗示性は過度には高まらない
②'人格は変わらない、ホモセクシャルの被験者に試したがその性向は変わらなかった
③'現実と妄想の区別がつかなくなることはない
④'不健全な精神的態度を見せるようになったことはない。

 と結論づけている。逆に言うと、催眠に過度な期待を寄せている人間にはがっかり、という現実的な結果だ。逆にいうと催眠にそれほど力はない、ということだ。

 余談だが、「ミルトン・エリクソン心理療法〈レジリエンス〉を育てる」の中に以下がある。[2]


エリクソンが一度としてぶれたことのない領域は、「治癒」の捉え方であった。これは、彼自身が麻痺を克服したという体験から来ているのではないかと思う。彼は青年のころ、体験的なリソースが変化を発生させることを学んでいる。早くも1948年には、直接暗示はなんらかの形でクライエントに影響を与えるけれども、治癒はそうした直接暗示の結果ではなく、その問題の特定のコンテクストで必要とされる体験を再結合させることによって生じるものであることを認識していた(Erickson , 1980).


 このあたりはエリクソンの技法のミソだ。結局、間接暗示で知覚と知覚に新しい関係を示唆して体験を再結合している様子は論文の至るところに出て来る。要は、論文中の表現を借りると、経験に間接暗示を編み込むということだ。要は経験のメタ・レベルでの編集ということになる。これができないと催眠下で暗示、暗示といって単にコトバを呟いても意味がないということでもある。



催眠が反社会的に利用される可能性の研究 

 二本目は、「An Experimental Investigation of the Possible Antisocial Use of Hypnosis(1939)」という題の論文。

   エリクソンは38歳。

 出来事といえば、ヒトラー率いるドイツがポーランドに侵攻を開始し、ヨーロッパから第二次大戦が始まったとされる、ちょうどそんな時代だ。

 論文に戻る、要は、催眠を反社会的なことに活用できる可能性はあるのか?

 現在のコトバで言うと、「催眠をソーシャル・エンジニアリングに使えるのか?」となるだろう。「元詐欺師が教える詐欺のテクニック」のようなものだ。これについて「ソーシャル・エンジニアリング」[3]という翻訳本がある。個人的には英語版を保有しており、日本語版を書店でパラパラ読んでみたが翻訳に少し難ありという感じだった。だが、本書ではNLP(Neuro-Linguistic Programming:神経言語プログラミング)がきちんと悪役レスラーを演じているという意味では興味深い著作だ。

 さて、ソーシャル・エンジニアリングとは「人間の心理的な隙や、行動のミスにつけ込んで個人が持つ秘密情報を入手する方法のこと。ソーシャル・ワークとも呼称される。あるいはプライベートな集団や政府といった大規模な集団における、大衆の姿勢や社会的なふるまいの影響への働きかけを研究する学問である」。

 ここで書いたが、ソーシャル・エンジニアリングは人間関係のアヤで発生するものだ。例えば、仲良くなって重要な機密情報を聞き出す。あるいは、オレオレ詐欺のように人の親切心につけ込んでお金を振り込ませるとかそういった内容となる。逆に言うと、企業や団体はこういうことが起きないように、あるいは起きたときの対処を業務プロセスに反映しておく必要があるだろう。

 もちろん、こういった場面で催眠が使えるかもしれない。しかし、ソーシャル・エンジニアリングを何か一つの原因に還元することは難しい。つまり、「催眠だけがソーシャル・エンジニアリングの犯人なのか?」

 このような前提をおいてエリクソンは調査研究を進める。そんな論文となる。

考察 

 コンサルティングで言われることに「クライアント・インタレスト・ファースト」というのがある。要は、顧客の利益が第一だ、ということだ。裏を返すとコンサルタントの利益は二の次だ、ということでもある。今日の論文からするとやはり、エリクソンも、顧客の利益が第一、と考えていることがわかるよい論文だ。だから、長年に渡って顧客に不利益があるのではないか?この仮説のもとに不都合を地道に調査・実証した、という具合だ。対してお金にもならない地道な研究を何年も続けられるものではない。

2月28日の進捗、472ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 17.8%) 

Volume 1  : The Nature of Hypnosis and Suggestion

Possible Detrimental Effects Of Experimental Hypnosis
 Milton H. Erickson Reprinted with permission from The Journal of Abnormal and Social Psychology, 1932, 37, 321-327. 

An Experimental Investigation of the Possible Antisocial Use of Hypnosis Milton H. Erickson Reprinted with permission fromPsychiatry, August, 1939, 2, 391-414. 



(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html
[2]http://ori-japan.blogspot.jp/2014/05/blog-post_13.html
[3]https://www.amazon.co.jp/dp/4822284972


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