2017年2月25日土曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 56日目


                                                                                                                            
 新しいことを学ぶためには、

 いままで学んだことを忘れる必要がある。

 いつもの延長で考えると、新しいことは学べない(笑)。

 <ひとりごと>



はじめに

 備忘録として、

 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 今日は、56日目について書いておきたい。

 エリクソンからは「学習」という少し大きな物語が感じられる。これは、クライアントに繰り返される不都合な症状や振る舞いも、中立的に表すと「学習」によって身につけた何かだということだ。おそらく、これはウィスコンシン大時代のクラーク・ハル教授の影響だ。エリクソンの症例だと、爪を噛む、おねしょをする、引きこもる、体に痛みを感じる・・・・これらの症状も「学習」によって身につけた何かだと考えていたフシがある。少なくとも、クライアントにはそういうメッセージを伝えているように思う。一番の問題は、その振る舞いや症状がその状況では役に立っていないということだ。

 ここで2つの解決の方向性が考えられる。一つは、振る舞いを変える。もう一つは、それが役立つ状況を見つける。これも当然、「学習」ということになる。ただし、新しいことを学びなおすには、一度「学習」したことを忘れて、できれば今の枠組みの外に出て「学習」することが必要になる。枠組みを超えた「学習」によってもたらされる変化は、ポール・ウオツラィックの言った二次的変化(Second-order change)ということになる。学習するから変化するのか?変化するから学習するのかは?おそらく円環的因果関係でぐるぐる回っていることになる。鶏⇔卵の話は、第二次サイバネティクスで扱う話だ(笑)。[2] それで、本当は一見役に立たないことが役に立つ状況を見つけるほうが難易度が高い。理由は現在の枠組みの外に出る必要があるからだ。

 日本人が病的に好きな方法としてPDCAというのがある。適用される前提を考えずに宗教のように信奉している人も多い(笑)。正式名称はデミングサイクルだが、これは基本既存の枠組みの元でカイゼンを意味している。例えば、部品の加工精度を ± 10ミクロン内に収めるという具合だ。サイバネティクス的にはこれはネガティブ・フィードバック・ループで回される。つまり、ゴールを設定し、その数値からの偏差を少なくする方向で回されることになる。究極は全員が偏差値50だ。だから、製造業の加工プロセスのようなところには向いている。ある意味、金太郎飴を真面目につくるプロセスだ。ただし、PDCAを真面目にやればやるほどイノベーションは生まれにくくなる。

 しかし、「学習」というのはこうはいかない。計画したからといって進捗ぐらいは管理できるかもしれないが、何をどう学ぶのか?などといったことは予め計画されることではないからだ。興味のあることは深く掘り下げる、興味のないことはさっと通り過ぎる。いままでの常識、思い込み枠組みを超えて学ぶことは予め計画してできることではないからだ。だから、実際にやってみてそこから一つでも学べたらラッキーくらいの態度が必要になる。これは、サイバネティクス的には、ポジティブ・フィードバック・ループで回される。ゴールから偏差を出来るだけ多くする方向で回される。偏差値50から上に外れたものすごく優秀なのが生まれることもあれば、偏差値50を下回る、少なくともその基準からはダメダメの何かが生まれることもある。企業などでダイバーシティを進めていることもこれに関係ある。[3] ただし、これはイノベーションは生まれても、品質管理は難しくなる。シリコンバレーのアイディア勝負の会社がこんな傾向にある。

 もちろん、ここではどちらがよい悪いの話をしているのではない。前提を考慮して使い分けるのが重要だということだ。ちなみに、エリクソンの場合は、ポジティブ・フィードバック・ループによる「学習」ということになる。だから、既存の枠組みを忘れるなり、超えたところにある「学習」ということになる。枠組みを忘れるために、あっと驚くような方法を使うこともある。結局、エリクソンの間接暗示も大きな物語として書けば「アンラーニング」と「学習」のためにあるということになる。


間接暗示の形式

 今日は、「Indirect Forms of Suggestion(1976)」の続きから。

 エリクソンは1980年に亡くなるので、かなり晩年のエッセー。エリクソンは、1957年に催眠を臨床等への応用を行う学会である The American Society of Clinical Hypnosis[2] を設立するが、このエッセーはその学会の1976年に開かれた28回目の年次総会で発表された内容だ。アーネスト・ロッシとの共著となる。

 エリクソンのスタイルの特徴はこのあたりに書いた。細かい話として直接暗示ではなく、間接暗示を多用する、ということがある。要は、暗にほのめかす、とか「含み」を持って話すということだ。欧米の文化を勉強すると、安直に「自分を強く主張しろ」というようなことが語られるが、光が強くなれば影も濃くなるのように、自分の主張を押し付けると相手の抵抗が強くなるのは万国共通ということだ。

 それで今日の範囲は、11の対立概念の併記、から14の間接暗示について議論、というところになる。

1.Indirect Associative Focusing
2.Truisms Utilizing Ideodynamic Processes and Time
3.Questions That Focus, Suggest, and Reinforce
4.Implication
5.Therapeutic Binds and Double Binds
6.Compound Suggestions: Yes Set, Reinforcement, Shock, and Surprise 7.Contingent Associations and Associational Networks
8.The Implied Directive
9.Open-Ended Suggestions
10.Covering All Possibilities of Response

11.Apposition of Opposites
12.Dissociation and Cognitive Overloading
13.Other Indirect Approaches and Hypnotic Froms
14.Discussion


11.の対立概念の併記の例は以下、


As your hand feels light and lifts, your eyelids will feel heavy and close.


実際には、手が軽く感じて上に浮遊すること、それとまぶたが重く感じて閉じることには関連性はないが、あたかもここに関連性があるように示唆している形式になる。色々バリエーションあり。言葉だけではなく身体のある部分とある部分がつながっているに振る舞うとパントマイムになる。

12.は分離と認知のオーバーローディング、これはジョージ・ミラーの「Magical Number  7 plus or minus 2」と関連がある。[4] 同時に5〜9以上の情報に知覚の注意を向けてもらうことで意識を混乱させるようなパターン。



You can stand up or sit down. You can sit in that chair or the other. You can go out this door or that. You can come back to see me or refuse to see me. You can get well or remain sick. You can improve or you can get worse. You can accept therapy or you can refuse it. Or you can go into a trance to find out what you want.


ここで二重分離のダブル・バインドについても数式めいた方程式が多数提示され、ほとんどのパターンが網羅されている。

13.はその他のパターン。参考文献中心。

14.は、上に上げたパターンについてのディスカッション。

 おおよそこんな感じだ。
 
 
考察 

 さて、間接暗示は言葉のパターンだ。しかし、本当に重要なことはそれを補助線としてクライアントの知覚の注意がそう動いているか?ということになる。

 もちろん、混乱というのは知覚が混乱しているということでもある。何か、新しいことを学ぶためには、その手前で既存の枠組みから出るために、あえて混乱が必要な時もある。「嵐の前の静けさ」から「嵐」になり「雨降って地固まる」のようなプロセスということだ。その意味、エリクソニアン・アプローチのトランス状態というのは、既存の枠組みを緩めて何か新しいことを「学習」しやすくする状態だということもできる。

2月25日の進捗、448ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 16.9%) 

Volume 1  : The Nature of Hypnosis and Suggestion

Indirect Forms of Suggestion 
Milton H. Erickson and Ernest L. Rossi A portion of this paper was presented at the 28th Annual Meeting of the Society for Clinical and Experimental Hypnosis, 1976, under the title Milton H. Ericksons Approaches to Trance Induction.




(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html
[2]https://learn1.open.ac.uk/mod/oublog/viewpost.php?post=178202
[3]http://ori-japan.blogspot.jp/2013/12/blog-post_13.html
[4]https://en.wikipedia.org/wiki/The_Magical_Number_Seven,_Plus_or_Minus_Two


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