2017年3月14日火曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 73日目


                                                                                                                            
 地味な検証が続くなぁ〜

 まぁ、これはこれで面白いところだが(笑)。

 <ひとりごと>



はじめに

 備忘録として、

 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 73日目について書いておきたい。

催眠状態で知覚は変容するかの観察

「Further Observations on Hypnotic Alteration of Visual Perception(1964)」から。

 著者はミルトン・エリクソンの妻のエリザベス・エリクソン。要は、見えないガラスの向こうにあるガラガラヘビを催眠状態でゴムホースと暗示しそれをつかめと指示する、あるいは、見えないガラスの向こうにいる実験者の顔に酸をかけろと催眠状態で暗示し、それぞれそれができるかを観察するある意味反社会的なことに催眠が使えるかどうかの実験と関連。

 ウィスコンシン街を歩いていた時、たまたま宝石店の前で「見えないガラス」を見つける。ここで自己催眠をかけて自分で実験してみる。「見えないガラス」が見えた経験をする。これから反社会的実験の時、そもそも被験者には「見えないガラス」が見えていたのではないか?それだと実験の意味は随分異なる、と更なる論考しているのがこの論文。

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 おそらく、エリザベスは自分たちの使っている催眠を含むアプローチに対する「濡衣」や「レッテル貼り」のようなものを論理的に晴らしたかった意図もあったのだと推測する。


視覚運動性眼振について
二本目は、「An Investigation of Optokinetic Nystagmus (1962)」。著者はミルトン・エリクソン。

 趣旨は、催眠時の視覚運動性眼振を観察することで、ヒステリー性の盲目と仮病の盲目を見分けられるのではないか?について実証実験と論考ということになる。

 細かい話はここでは書かない。

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随考

 地味な検証が続くので技法について少し書きたくなった。

 エリクソン書簡集に以下がある。短文のダブル・バインド。まるで、禅問答だ。


Are you in trance now ?

 
 日本語になりにくいが、解説してみたい。

《前提:抵抗の強いクライアント》

 前提として、抵抗の強いクライアントがいる。「あなたの言うことは聞かない!」と構えたクライアントだ。これ以外にも、コトバ、つまりメッセージとしてあからさまな抵抗を示さないにしても、メタ・メッセージ、つまり態度では抵抗を示すクライアントもこれにあたるだろう。日本の場合は、顔はニコニコしていても絶対言うことを聞かない、面従腹背といったケースもあるだろう。何れにしても厄介だ。

《ダブル・バインドの呪文を唱える》

ここでエリクソンが上のフレーズを投げかける。 

 普通に解釈すると「あなたは今トランス(状態)にあるか?」だ。当然、クライアントは、もし、そうでも抵抗してYes とは答えたくはない。では、反対にそうでない場合、自信を持ってNo と答えるのか?悩むところだ。理由は、No という行為自体に「あなたの言うことを聞いている」というメタ・メッセージを含むからだ。

《曖昧さからくる二重の意味》

 ここで、Now は Noとも聞こえる。もちろん、どちらにも聞こえるように曖昧なことを正確に発音している。

 そこで、もう一つの解釈が生まれる、「あなたは今トランス(状態)にある?ないよね?」だ。ここでは英語のため日本語とひっくり返る。Noといって「はい、トランスにないです」と同意するか、Yes といって「いいえトランスにあります」になるかだ。ただ、おそらく自信を持って No とは言いたくないし。 Yes という行為で「あなたの言うことを着聞いている」というメタ・メッセージも送りたくないはずだ。

《二項対立からダブル・バインドに陥る》

 結局、クライアントは、YesともNo ともどちらにも取れる表現に明確な態度を示すことができなくなる。そして、固まる。つまり、ダブル・バインド状態に陥り、普段とは少し違う意識の状態が誘発されることになる。もっと言うと「Yes or No」二項対立が「あなたの言うことは聞かない」のメタ・レベルの認識でバインドされた結果、批判的な認識上のフレームが停止されていく過程に入る。このあたり、治療的ダブル・バインドを繰り出すエリクソンの誘導は芸術的だ。

《抵抗を利用したトランス誘導》

 ここでは、抵抗を上手く使っている。一般的に、「相手に抵抗する」逆に「贔屓の引き倒し」は、簡単にメタ・レベルの重石になる。詰将棋の設定のようなものだ。結果、これを慎重に進めていくと、詰将棋のように認識が詰まる。つまり、中立でない偏った態度を利用して批判的な認識上のフレームを停止できる。金儲けに目が眩んだ人が儲け話に騙される。あるいは、息子可愛さに善意からついお金を振り込んでしまう。こういった構図と似ている。ただし、ここでは平和的かつ目的達成のために有効に利用していることになるが。

 エリクソンは、こういった認識の歪を利用して治療的ダブル・バインドを繰り出す。これらがクライアントに二項対立と認識されれ、さらにメタ・レベルの重石が加わると、普段とは違う意識の状態に入る。このあたりで書いた。これを、どんどん続けてサイバネティクスのポジティブ・フィードバック・ループで回す。

 結果、これがトランス誘導になり抵抗の強いクライアントもトランス状態に導くことができる。繰り返すが、この状態は普段の批判的なフレームが停止され、色々なことを素直に学習できる状態だ。普段の偏りが解消された状態でもある。精神分析のように何かを深く分析する必要もない。認識の歪を利用するだけ。これがエリクソニアン・アプローチのトランス誘導の本質の一つでもある。いわゆる「古典催眠」とはまったく違う点だ。もちろん、「古典催眠」vs.「現代催眠」のような二項対立の見方は極めて頭が悪い。理由はこのあたりで書いた。また、ネットにあるような「エリクソン催眠」とは謳っているもののダブル・バインドのトランス誘導とベイトソンの「Theory of Mind」に言及していないやり方はインチキとみて間違いない(笑)。もちろん、悪気はないのだろうが、エリクソンを理解するには、これを理解できる程度の知能はないと困る。

《トランス誘導だけでは変化は生まれない》

もちろん、トランス誘導だけ成功したから、ある程度恒久的な認識や行動の変化が起こるわけではない。逆に言うと、エリクソン派生のMRI、SFA、ミラノ派家族療法などはトランス誘導なしでも変化が起こる。ミラノ派が使えれば、オープンダイアローグも普通に使えるようになる。結局、サイバネティクスを当てると技法は進化するということだ。催眠バカではいけないし、企業内のファシリテーションであればミラノ派のほうが使い易いというだけのことだ。。ただし、これらの技法でも大きな変化を起こすにはダブル・バインドを使うなどのパラドクス介入は必須だ。余談だが、変化が起こった先のゴールは当然クライアントとの合意がなければならない。

《日本語にしたら》

 さて、上のダブル・バインドは英語の音韻学的な曖昧さを利用していた。これを日本語で行ったらどういう方法があるか?これは中々興味深いテーマだ。同じように音韻学的な曖昧さを使った日本語のトランス誘導だと相当考えないといけない。

 これ以外にどのような方法があるか?一つは意識-無意識のダブル・バインドがあるだろう。また、時間のダブル・バインドを使うのもよいだろう。また、悪い仮定+頻度を使うのもよいだろう。会社でいつも親切そうな先輩が「いつになったら本当の実力を見せてくれるんだ?」というのは結構効果がある。単純に「頑張れ」と分けのわからない方向で励ましてもメタ・レベルで認識がバインドされないからだ(笑)。

《仕事や日常でもダブル・バインドに陥る可能性はある》

 このパターンを読むと、日常や仕事の場面で相手がトランス誘導など考えなくても相手をダブル・バインドに陥れることができる。おおよそ「詰める文化」をもった会社の人はこんな感じで話す。あの会社やあの会社がそうだ(笑)。これが治療的ダブル・バインドならよいのだが統合失調症的なダブル・バインドをあまりやり過ぎると心を壊す人が多くなるようだ。また、あまり良好でない人間関係などはこんなことがきっかけで起こるように思われる。

《ダブル・バインドから抜け出す方法もある》

 逆にいうと、統合失調症的ダブル・バインドの場合、これらの対処方法を知り、対処の力を上げることが良好な人間関係を築いたり、問題解決力を上げることにつなげることができる。

 具体的には統合失調症的なダブル・バインドを意識してもらう。これがパラドクスになる。そして、ここに治療的ダブル・バインドを当ててその状態から抜けていくようになる。これがカウンター・パラドクスになる。こういったことがある程度精緻に出来るようになると、修羅場に転がっているダブル・バインドを探して解決するのが楽しくて仕方がなくなるのだが(笑)。



3月14日の進捗、584ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 22.1%) 

Volume 2 : HYPNOTIC ALTERATION   OF SENSORY, PERCEPTUAL    AND PSYCHOPHYSIOLOGICAL   PROCESSES

Further Observations on Hypnotic Alteration of Visual Perception Elizabeth M. Erickson Reprinted with permission from The American Journal of Clinical Hypnosis, January, 1966, 8, 187-188. 

An Investigation of Optokinetic Nystagmus Milton H. Erickson Reprinted with permission from The American Journal of Clinical Hypnosis, 1962, 4, 181-183. 



(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html


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