2017年3月26日日曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 85日目


                                                                                                                            
 「型は美、技は心」

  ともだちの受け売りだけどなぁ(笑)。

 <ひとりごと>



はじめに

 備忘録として、



 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 85日目について書いておきたい。


オレンジジュースと退行催眠
 一本目は、「Hypnotic Investigation of Psychosomatic Phenomena: A Controlled Experimental Use of Hypnotic Regression in the Therapy of an Acquired Food Intolerance(1943)」から。著者はミルトン・エリクソン。

 ある意味、精神分析的なアプローチと、ブリーフ・セラピーの祖の一人でもあるエリクソンのアプローチの違いが分かるという意味では非常に面白い論文だ。

 1本目は退行催眠に関する論文だ。退行催眠からは「虚偽記憶」をイメージしてしまう。エリクソンもこの論文で、退行催眠は、注意深くかつ、システム的に被験者を再び方向づけなければならない、と書いている。この論文より随分後になるが、エリクソニアンのマイケル・ヤプコの「SUGGESTIONS OF ABUSE: TRUE AND FALSE MEMORIES OF CHILDHOOD SEXUAL TRAUMA」が公開されているので読んでおくとよいだろう。今日は詳細な内容は取り上げない。ちなみに、同じヤプコの著作である「Tracework」の中に虚偽記憶をつくらないようにする安全な退行催眠のやり方が書いてあったと記憶している。もちろんこれ自体は自分の虚偽記憶ではない(笑)。

 さて、内容を少し。20代前半の女性の話だ。概要は以下。

  1. 催眠の被験者である、患者はオレンジジュースがとても好きだった。
  2. 彼女は、感情の問題をかかえることになったが、それは数日である程度解消した。
  3. この問題はつづいたが急性の胃腸障害になり、自分でオレンジジュースにひまし油を入れて治療を試みた。
  4. 彼女は気分が悪くなり、繰り返し嘔吐した。
  5. 翌日、オレンジを見て、匂いを嗅ぐだけで吐き気と恐怖に襲われるようになった。
  6. 一ヶ月ほど後、催眠療法で解決しようとしたが拒否され、やむなく自分で解決することにした。
  7. 被験者になりたかったが引き続き拒否され、怒りを覚えるようになった。
  8. 彼女はある集会で臨床催眠の被験者になった。
  9. デモンストレーション中に退行催眠が実施された退行した状態になった。
  10. 彼女は、退行催眠中に用意されたオレンジジュースを飲み干した。
  11. 彼女は、催眠中に起こったことを忘れるように暗示されて現在に戻った。
  12. 彼女は唇の周りを舌で舐めて何が起こったのか確かめたい様子だった。
  13. 翌日、オレンジが嫌いなことを訴えていたが、オレンジジュースは難なく飲めるようになった。彼女には「自然に治った」と報告された。

 細かい技法については書かれていないが、面白い事例だ。結局、問題解決は、根性や気合ではなくシステム的に解かなければならないことも分かる(笑)。



個人的嗜好と反応
    二本目は、「Experimentally Elicited Salivary and Related Responses to Hypnotic Visual Hallucinations Confirmed by Personality Reactions (1943)」から。著者はミルトン・エリクソン。

     簡単にいうと幻覚が起こった時、個人的に嗜好と反応が関係するか?の考察。例えば、キャンディーが好きな人がそれを幻覚した時と、嫌いな人がそれを幻覚した時の違いがあるのか?の考察。おおまかにいうとこんな感じ。

     
    随考
     
     おやつのつもりで、ミルトン・エリクソンとアーネスト・ロッシの「Experiencing Hypnosis(1981)」を再読してみる。論文とあわせて読むと面白い構図が分かる。

       エリクソンの書いた1930年から1950年くらいまでの論文には、あまり詳細なことが書かれていない。例えば、「被験者をトランス状態に誘導し」「いくつかの間接暗示を与え」というような記述しかないことが多い。今日の2本の論文もそう。

     確かに、論文の場合は、「要点は?」「で、結論は?」のようなところが大事だからこれは、これでよい。しかし、「具体的に誘導はどうしたらよいの?」「どんな暗示を与えたの?」「具体的には?」のように詳細に興味を持つと、論文をいくら読んでも書いていないという構図がここにある。

     もちろん、世の中よくしたものだ。上の「Experiencing Hypnosis」にこれが書いてあるからだ。ただ、これだけ読んでも不完全だ。理論と技術と実践、どれもないといけない。

     さて、技術の一例をあげる、ネットにエリクソンが1958年にスタンフォード大で実施した、腕浮揚によるトランス誘導とリバース・セットのデモンストレーションがある。弟子たちはエリクソニアン・アプローチと呼び、一般的には現代催眠とか呼ばれる手法だ。いわゆる古典催眠の延長上にはない。だから本当は比較表で比較しても意味はない。


     ここで、2:55くらいのところでエリクソンは、ヒルガードの秘書のルースという名前の女性に意識-無意識のダブル・バインドの設定を行う。要はこれがグレゴリー・ベイトソンの提唱した統合失調症的ダブル・バインドを解くためのエリクソンによる治療的ダブル・バインドの禅問答ということになる。もちろん、一発芸ではない。送りバントでランナーを進めるように折を見てコツコツ、バリエーションを持たせて繰り返す。

     具体的には以下だ、


    Now you could lift your right hand, or your left hand consciously, but your unconscious mind can lift one or the other of your hands. And I'd like you to look at your hands, and I'm going to ask you a question and you do not know the answer to that question consciously, and you'll have to wait and see what the answer is.

    I'm going to ask you which hand is your unconscious mind going to lift up first? The right hand or the left, and you really don't know. But your unconscious knows.

    今、あなたは右手または左手を意識的に持ち上げることができるかもしれません、しかし、あなたの無意識の心はあなたの手のどちらかを持ち上げることができます。 そして、私はあなたの手を見て、あなたに質問をするつもりです。あなたはその質問への意識的な答えを知りません、あなたは答えが何であるかを待たなければなりません。

     私はあなたに尋ねるつもりです、あなたの無意識の心はどちらを最初に持ち上げるでしょうか? 右手それとも左手?、あなたは本当に分かりません。 しかし、あなたの無意識は知っています。


        声に出して何回か読んでみる。おもしろい、感覚だ。

     これ以降、不随意の運動(例えば、手が少しでも動く)が起こっても、起こらなくてもそれは無意識が(うまく)やっています、の設定が行われていることになる。心理学的な無意識の有無も詳細もわからない。しかし、言葉のレトリック上は、あなたが何しても、しなくても、それは「無意識」の手の平で踊っていて逃れらません、と設定されている。

     統合失調症的ダブル・バインドは、Aをとっても罰を受ける、Bをとっても罰を受ける、そこからは逃げられない、だった。

     反対に、治療的ダブル・バインドは、何かやってもそれは(無意識が)うまくやっています。何かをやらなくても(無意識が)うまくやってます、(どっちをとっても成功)から逃げられない、のプロットが設定されている。余談だが、このアナロジーで会社や人間関係ということになると、これは失敗しても処罰されないとか、相手に多少迷惑をかけても許容される関係の重要性となるだろう。こう考えるとエリクソンの技法の応用範囲は広がる。

     エリクソンはクライアントを観察しながら、こういった禅問答をコツコツ繰り出しながら、治療的ダブル・バインドを設定し、クライアントの能力を引き出す支援をしていくところがある。ちなみに、単なるバインドは日常の選択肢(first-order)のレベルで選択することだ。例えば、「みかん」がいいですか?「りんご」がいいですか?のような場合、この場合は当然、どちらも要りませんも含み、メタ・レベルでは拘束されていないのでダブル・バインドではない。

     ダブル・バインドは、同じ選択でも、常の選択肢から出て新しい第二次レベル(Second-order)の選択を行う必要が出て来る。今回の場合、少しでも手が動けば、右手か左手が動くことが選択されているわけであり、右手に焦点を当てると、動くか動かないが選択されていることになる。そして、そこからは逃れらないのでメタ・レベルの拘束が効いている。だから、ダブル・バインドとなる。さらに、条件付きEither A or Bの二項対立になっている。ここから抜け出るための普段の枠組みを超えた策の一つは、普段の意識状態ではない何らかのトランス状態に入るしかない、となる。結果、トランス状態に誘導される。ここでは既存の枠組みを超えた選択が起こっている。今回は、普段と異なる心身状態引き出された。エリクソンの誘導がちょっとした禅問答になっている。

     このレベルで解説していくとキリがないのだが、少なくともエリクソンもスタンフォード大のヒルガードの研究もその時代のヘイリーの研究も、後のアーネスト・ロッシとの著作を通して初めて具体的な技術として見えてくることがあるということなのだろう。やはり、ロッシを絡めることで明後日の方向に寄り道しないで済むところは大きい。

    3月26日の進捗、678ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 25.6%) 

    Volume 2 : HYPNOTIC ALTERATION   OF SENSORY, PERCEPTUAL    AND PSYCHOPHYSIOLOGICAL   PROCESSES

    Hypnotic Investigation of Psychosomatic Phenomena: A Controlled Experimental Use of Hypnotic Regression in the Therapy of an Acquired Food Intolerance 
    Milton H. Erickson Reprinted with permission fromPsychosomatic Medicine, January, 1943, 5 67-70. 

    Experimentally Elicited Salivary and Related Responses to Hypnotic Visual Hallucinations Confirmed by Personality Reactions 
    Milton H. Erickson Reprinted with permission from Psychosomatic Medicine, April, 1943, S, 185-187. 




    (つづく)

    文献
    [1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html


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