2017年3月4日土曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 63日目


                                                                                                                            
 これらのエッセーから感じ、学べることは、

 エリクソンのプロフェッショナリズム。

 自分の目の黒いうちは、クライアントの不利益を許さない。

 <ひとりごと>



はじめに

 備忘録として、

 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 63日目について書いておきたい。今日は、短いエッセーを3つほど。

退行催眠の危険性

 一本目は、「An Instance of Potentially Harmful Misinterpretation of Hypnosis (1961)」から。非常に短いエッセー。

 内容は、催眠が有害に機能した事例。催眠術師の知識の欠如から退行催眠で負の経験を増幅してしまった結果、神経衰弱に陥った事例。

 1960年に、ある大学生がエンターテイメントを目的としてステージで退行催眠のデモンストレーションを行った。被験者の一人は、A子さんという子供を持つ若いご婦人。この後、さらに2回、Aさんに対して催眠を試みるも失敗。この大学生は「A子さんは催眠にかかるには頭が悪すぎる」と宣言。他の何人かの被験者に対しては成功し年齢退行の現象を引き出す。Aさんは、後日この様子を友人B子さんに話す。

 B子さんは息子が歯科医に通っており、この歯科医は治療の一部に催眠を使っている。B子さんは、A子さんに、この歯科医が「催眠は個人の強みを引き出すのに使うべきで催眠をエンターテイメントに使ってはいけない」と語っていたことを話す。

 さらに三ヶ月が経過。A子さんは精神科の治療が必要なほどの突然神経衰弱に陥る。A子さんは幼くて母を失い、養子に出され、そこで辛い経験をし、結婚するまで何一つ楽しいことがなかったことを回想したことが要因の一つと思われた。

 Bさんのはからいでこの歯科医が紹介され、この歯科医からエリクソンに内容が報告された。

 ここからの学びは、以下だ。

  • 催眠現象が起こらなくても、負の資源・資質(リソース)を増幅している可能性がある
  • だから、知識がない人間がやたら催眠を使うべきではない
  • 特に、退行催眠で過去の負の経験を増幅するのは最悪
  • 催眠は経験にある有益な資源・資質を増幅する方向で使う
  • 臨床催眠家を目指すならばステージ催眠術師には習うな

  さて、個人的には、An Instance と聞くと、ITのオブジェクト指向、分析・開発・プログラミングの「インスタンス」が思い浮ぶ。要は、これを含むより大きな集合である「クラス」に対する個別の事例としての「インスタンス」という具合だ。元は、バートランド・ラッセル、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドの「Theory of Types」から来ている。グレゴリー・ベイトソンはこれから「Theory of Mind」つまり短期療法や家族療法で用いられる「こころの理論」を構築した。逆にいうと通常の催眠で言われているような「氷山モデル」はエリクソンとは関係ないし、使い物にならない。

 要は、経験にも具体的な経験であるその場面その知覚をもった「インスタンス」と、これをまとめた抽象度の高い「幸福」「修羅場」のようなクラスが存在するという具合だ。

 ある状況においてこのどこに焦点を当てているのか?でその反応や意味は変わる。ただし、抽象度の高いメタ・レベルの記号やシンボルが振る舞いを規定するのが案外厄介だ。だから、本当は、単純にプラスの経験を増幅すればよい、とはならないのが悩ましいところだ。おそらくこの事例も過去の嫌な経験が引き出され、メタ・レベルの記号やシンボルでそれがクリッピングされている。問題はこれが悪意なくやられているのが問題なのだろう。

余談だが、Facebookの友人の中にラッセルの子孫が居るがなんか不思議な気分だ。


催眠による腰痛

 二本目は、「Stage Hypnotist Back Syndrome(1962) 」というエッセー。

 ステージ催眠だと、椅子を3つ用意し、この上の被験者を寝かせる。催眠後、真ん中の椅子を取り除く。被験者はカタレプシーで硬直し、頭と足だけが椅子にのっている状態になるというのがこのエッセーの前提にある。

 エリクソンは30歳以下の十数人の腰痛持ちの被験者の話をする。要は、上でやっているようなステージ催眠のやり方が腰痛の原因になっているのではないか?と非常に論理的に考察していくのがこのエッセーとなっている。

 ここからの学びは以下だ、

  • 催眠を楽しむのもいいが、腰痛持ちになっては意味がない 
 これに尽きるだろう。



編集者から

 三本目は「Editorial (1964)」。要は、会報などにある、編集者から、というようなエッセー。この途中まで。

 内容は興味深いが深刻な話だ。この内容は学会誌「The American Journal of Clinical Hypnosis 」に投稿された、《編集者から》というような会報や雑誌などによくあるエッセーだ。

 内容の一つは医学教育を受けていない高卒の催眠術師が、催眠術を教えるついでに催眠療法の真似事を行っている。例えば、歯痛、神経痛の痛みの低減、過食や喫煙などの悪習の停止など。これは場合によってはうまくいくのだが、元々心理的に問題を抱えていたり、医師の治療が必要な場合などがあり、こういった患者に対して催眠術師がニッチもサッチもいかなくなって、エリクソンの友人の医師に電話をかけて助けを求めてきた話が書かれている。

 もう一つの事例は催眠で寝ている間の歯ぎしりを治した催眠術師の話しだ、少女である患者の歯ぎしりは治ったが代わりに舌を噛むようになって口の中が血だらけになるようになった。医師に相談し、この催眠術師を訴えるということになっているというような話が語られる。

 要は、餅は餅屋、生兵法は大怪我の元、で一つは生半可な知識で催眠を使うとクライアントの利益を著しく損ねる場合がある、ということと、もう一つは「催眠というコトバが風評被害」を被っている、というのがこのエッセーの趣旨になる。

考察 

 エリクソンは、臨床催眠を習いたいなら、ステージ催眠術師には習うな、ということを講演で言っていた。おそらく、今日のエッセーにあるような経験からこういった信念が構築されたのだろう。

 技のキレが増してきたら、それを振り回していけない、分をわきまえて適切に活用しろ、ということなのだろう。但し、最初のエッセーは明示的な催眠現象を引き出すことができなくても、暗示で好ましくない資源・資質を活性化することで神経衰弱になることを示していた。つまり、効果が催眠にかかる、かからないではないところで起きているだけに結構深刻な事例だ。

 さて、このエッセーに学ぶところでもあるのだが、個人的には、この技法の範囲をコーチングとファシリテーションに、目的は人や組織の変化と成長に限っている。しかし、それでもプロフェッショナリズムを持ってクライアントの利益優先で使う、ということは常日頃から心がけていることでもある。

3月4日の進捗、504ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 19.0%) 

Volume 1  : The Nature of Hypnosis and Suggestion

An Instance of Potentially Harmful Misinterpretation of Hypnosis 
Milton H. Erickson Reprinted with permission from The American Journal of Clinical Hypnosis, April, 1961, 3, 242-243. 

Stage Hypnotist Back Syndrome 
Milton H. Erickson Reprinted with permission from The American Journal of Clinical Hypnosis, October 1962, 5, 141-142. 

Editorial, 
The American Journal of Clinical Hypnosis, July, 1964 Milton H. Erickson Reprinted with permission from The American Journal of Clinical Hypnosis, July 1964, 7, 1-3. 


(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html

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