2017年3月19日日曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 78日目


                                                                                                                            
     エリクソニアンの基本的なパターンって何だろうなぁ?

 基本は5つの質問で表されるけどねぇ(笑)。

 <ひとりごと>



はじめに

 備忘録として、



 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 78日目について書いておきたい。

聴覚と記憶に関連する麻酔薬

「Chemo-Anaesthesia in Relation to Hearing and Memory  (1963)」。著者はミルトン・エリクソン。

 麻酔薬が有効に機能している時の聴覚と記憶に関するエッセーとなる。読んだ。が、内容が医療的な話になる。また、おそく現代の知見はこれと異なっている可能性もあり、個人的には知識も資格もないので今日は詳しいことは書かない。

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随考

 今日の内容とは直接関係ないが、自身のコーチングやコンサルティングを深化させる上で、「エリクソニアン・アプローチとは何か?」と考えることが時々ある。

 結論から言うと、究極は、以下の戦略的な5つの質問に還元されるだろう。「Ericksonian Approaches 」のp.69から引用すると以下になる。


1. What is going on now ? --- 現状
2. What do you want ?     ---理想
3. What stops you from getting these right now ? --- 現状の制約
4. What is needed from present state to desired one ? --- 理想までの資源
5. How would you know if you attained your desired state ? --- 理想に到達した認識


 ※ State は、認識・行動の進行中のプロセス、プロセス内のカイゼンはサイバネティクス上のネガティブ・フィードバック・ループでも可能だが、現状から理想への遷移は、ポジティブ・フィードバック・ループを必要とする。

 困った時にこれを何度も唱える。自分の内側、外側で起こっていることを知覚する補助線だ。これがエリクソンの基本中の基本のメタ・パターンとなる。

 自身で問題を解決したい時、他の人の問題の解決を支援する時、何れも同じだ。ただし、自身に使う場合は、高いメタ認知力が必要になる。誰でも「自分の振り見て我がふり直せ」は案外難しいからだ。

 余談だが、メタ認知力を高めるためには、マインドフルネスやベティ・エリクソンの自己催眠がこの助けになるだろう。

 さて、この枠組みは、エリクソン派生のブリーフ・セラピーをベースとしたコーチングでもまったく変わらない。TOC思考プロセスの5つのロジック・ツリーと恐ろしくオーバーラップしているが、要は、これが究極の問題解決法だからということでもあるのだろう。

《エリクソン的傾聴》

 コーチングの場合、クライアントの話をこの枠組みで丁寧に聞くところから始める。この枠組みはクライアントの話を傾聴し「見立てる」ための枠組みでもある。散漫に話を聞いてはいけない。しかしあまり意識しすぎてもいけない。エリクソンが周辺視野をつかっているのは意識だけはなく自身の無意識も使うためだ。

 ラポールを形成して以下の枠組みをほんの少しだけ意識して聞く。見立てて、相手の世界観を想像し、ぽつりぽつり、クライアントに示唆をする。これだけで、それなりに格好のつくコーチングになる。


  • クライアントの現状認識はどうなのか?
  • 本当はどうなっていたいのか?
  • 理想の状態になるために何が制約になっているのか?
  • 理想の状態になるためには何が必要なのか?あるいは偶発的に何が使えるのか?
  • 理想の状態に達したら、それはどのように分かるのか?
 
 これは、コンサルティングと同じ枠組みだ。しかし、コンサルティングとの違いは、コンサルティングが「ファクト」に焦点を当てているのに対して、コーチングは、「認識論(Epistemology)」つまり、クライアントの認識のやり方に焦点を当てる。つまり、エリクソニアンにあるのは、「あなた自身が問題ではない、あなたの今の認識のやり方が問題なのだ」ということだ。だから、エリクソニアン・アプローチでは、「現状の認識プロセス」から始める。ただし、大抵の問題はクライアントに内在化されていて、外在化されていない。つまり、無理に根掘り葉掘り聞くと、「やり方ではなく、あなたの人格が問題」だと言うメタ・メッセージを伝えることにもなり、押せば押すほど強い抵抗を生むことになる。反対に、この抵抗を変化のために意図的に煽ってプロボカティブに利用するという方法もあるのだが、初心者にはお勧めしない。

 内容を少し見ていく。

《現状》

 現状を観察する上での要点は以下の3つだ。

  • 今ココの問題のパターンを冷静に観察する
  • 現状を理想への「踏切台」とする
  • 現状のパラドクス構造を見抜く
 
 エリクソン派生のブリーフ・セラピーは原因分析をしないと言われる。ここに、ある意味誤解がある。過去に遡及してトラウマ的な記憶を直接扱わないという意味ではそうだ。しかし、現在、今ココで起こっている問題、あるいは繰り返される問題のパターンには向き合わなければならない。これが出発点となる。もちろん、本当は現状の問題を問題と認識している「認識のやり方」そのものが問題ではあるのだが。

 さて、現状認識は、将来の理想への「踏切台」となる。「踏切台」はしっかりしたものでないと遠くへは跳べない。しっかりした現状認識は単なる妄想で理想の未来を思い描くことを防ぐ。もちろん、冷静に現状に向き合うことが難しいこともあるだろう。だから、エリクソンはここでクライアントのメタ認知を高めるために「催眠によるトランス状態」を使う。ここ最近のこと、あるいは今ココで起こっている問題・課題に臨場感を高めても冷静に向き合えるように支援する。

  ただし、ここで落とし穴がある。いい大人が悩んでいるということだ。つまり、簡単に解決できるような取るに足りないことであれば誰も悩まない。ここで書いたが、こういう場合は現状パラドクスにハマっている可能性が高い。このパラドクスは悪いトランス状態でもある。パラドクスはパラドクスになるようなものの見方と現実の出来事の相互作用で起こる。そして、良くない心身状態が引き起こされる。よいコーチに出逢えばこういったパラドクス構造を解き明かし、これを資源に変えて、まずはよい心身状態になって冷静に問題に向き合う支援をしてくれるだろう。だから、コーチングやセラピーも単純に「頑張れ」と励ましたり、エリクソニアン・アプローチの誤解にあるように「単に催眠がかかれば問題は解決する」とはいかないことだ。ネットにある「退行催眠」程度で何かが治るのなら、エリクソンの治療的ダブル・バインドは必要ないことになる。エリクソンは悪いパラドクスにパラドクスをぶつけてそのパラドクスから抜け出る支援をしていた。ここで、パラドクスへの対処をシステム思考的に出来るかできないか?が「有能なコーチ」と「普通以下のコーチ」を分ける分水嶺にはなるだろう。世の中よくしたものだ。

《理想》

 人は理想を思い描くのが案外苦手だ。誰しも本田宗一郎のように今ココの知覚から理想の未来思い描くようにはいかない。これは以下から来ているのだろう。

  • 現状の問題に慣れて、それを普通の状態として耐えてしまう
  • 問題の起こっていない元の状態を理想としてしまう、あるいは突拍子もないことを妄想してしまう
  • 真面目に、過去の枠組みの延長で将来の理想を考えてしまう
 
 現状の不満や憂いが大きいことは、理想が高いことの裏返しでもある。ただ、人は優れた起業家のように理想の未来を思い描いたり、それを語ったりするのは案外苦手だ。理由の一つは、その問題の状態自体に慣れてしまうからだろう。問題を許容する能力が日々増えるということだ。だから、理想と言われても問題に耐える力を増やすこと、となってしまう。これが悪いほうに働いた場合は、いわゆる「茹でガエル」現象に陥る。精神や肉体の崩壊の危機寸前になって、はじめてその努力の方向が間違っていたと気がつく、というようなことになる。

 もうひとつは、問題の起こっていない状態を理想としてしまうことだろう。問題の起こっていない状態が理想。コンサルティングに従事していると案外「理想の業務は?」と聞いても「今起こっている問題が解決された状態」と答えて、それしか思い描けない人は多い。「優秀」と言われる人ほどそうだ。また、経営者層にも当てはまることがある。これは理想を描くの仕事の経営者としては由々しき事態だ。もちろん、逆に「実現できない夢想」ばかり語っていても仕方がない。これではまったく地に足が着いてないことになる。問題がない状態を理想とする習慣が身についていると、理想を思い描くのは案外難しくなる。案外、理想を描きそれを実現するにはトレーニングが必要だということだ。

 また、人はよほどのことがない限り未来の理想を現状の枠組みの延長で考えてしまう。しかも大真面目に。だらか問題なのだ。最初は現状の延長でもよいのだろうが、最終的には現状の枠組みから出た「理想」を思い描く必要があるだろう。一般的に、この枠組みから出るためにはパラドクスを上手く活用する必要がある。理由は普段は物事を認識するその認識のやり方自体に気づいていないし、気がついたからといってその枠組みから抜け出すことは難しいからだ。だから、パラドクスを利用して現状の枠組みから抜け出る必要がある。この発想は決して新しいものではない、日本人だと鎌倉時代あたりから禅問答が盛んになり、この頃から既にパラドクスを活用している。現状の枠組みから出るにはこの禅問答、エリクソニアンだと例えば治療的なダブル・バインドが必要だということになる。実際、ベイトソンやヘイリーはここに禅との共通性を見出している。理由の一つはパラドクスを利用する共通性だ。つまり、パラドクスを利用できて、はじめて現状の枠組みの延長にない理想が思い描けるようになるということだ。

《制約》

 ポイントは以下の3点だ。

  • 物理的、論理的制約を見つけて、これを利用する
  • クライアントの抵抗も制約。この回避につとめる
  • クライアントが他人から受ける抵抗も制約。この回避の方法を教える
 
 生きている限りは何らかの物理的、論理的制約がある。一般的に、制約が理想の実現を妨げている。物理的な制約は仕方がないところがあるが、論理的な思い込みによって縛られている制約は案外大きな影響がある。ただし、ここで制約を嫌なものだとか、役に立たないものだと考えてはいけないということだ。理想の実現のために、制約は利用するためにある。例えば、新しい市場に入るために参入障壁ということがあるが、一旦この市場に参入できれば、この参入障壁は他からあなたの会社を守ってくれる盾にもなるということだ。このように世の中、制約にはかならず二面性があるものだ。その状況によってよいことも悪いこともある。この二面性を認識してこれを資源として使いこなすことが必要だということになる。ただし、普通は制約を嫌なものとしか見ていないと、文字通り制約にしか見えてこないだろう。これを資源と見て活用するためには認識の転換が必要なのはいうまでもない。

 また、案外忘れてはいけない制約は、コミュニケーション上の抵抗ということだ。このあたりはこのあたりで書いた。まず、考えておかなければならないのは、コーチングを行う上でコーチがクライアントとのコミュニケーション上で起こる抵抗ということになるだろう。エリクソンは相手の意識のクリティカルな批判による抵抗を回避するために間接的アプローチを取る。

 また、クライアントを支援する場合は、クライアントが他の人から受ける抵抗を回避する方法を身につける支援をすることだろう。これにより程度の低い自己啓発が主張しているような「単にやる気のあるバカ」になることを防ぐことができる。やる気が全面に出ても適切な方法がないと、その裏返しで、他人からの抵抗は大きくなる。抵抗に抵抗しても上策ではないことは多い。相手を論破して前に進んでも恨みを買うことになる。出る釘になるのも構わないが、いつまでも同じレベルで論争を続けても無駄だということだ。ここで、クライアントにも間接的なアプローチを覚えてもらうということになるだろう。間接的アプローチは、メタ・コミュニケーションでもある。クライアントのメタ・コミュニケーション力の向上を支援する。これがコーチングの方向性になる。一例として、技法としてのメタファーや物語の利用がこれにあたるだろう。何れにしても制約を上手く利用することで資源になる。

《資源》

 ポイントは以下の3つだ、

  • 外的資源、内的資源を利用する
  • 内的資源の活用から始める
  • 資源をわらしべ長者のように得ていく
 
 資源といっても色々ある。外的存在する資源、例えば、モノやお金や人の協力などがこれにあたる。もちろん、エリクソニアン・アプローチは「何かそれを行うのに適切な心身状態がある」と考える。つまり、心身状態、考え、自分の行動、こういったものが内的資源となる。

 最初は内的資源の活用から始める。人は悪口を言われるとムカついたり悲しくなる。逆にその問題や課題を考えるための適切な心身状態もつくりだせるということになる。ただし、ここでは「ワクワク」とか「ドキドキ」というつもりはない。上でも書いたが現状を冷静に見るためにはある程度のメタ認知が必要になるからだ。楽しんでいる自分とそれを冷静に観察しているもうひとりの自分がいる。こういう視点とそれによって生まれるいつも問題にうろたえているだけはない心身状態に居ることが重要になる。

 また、資源の活用についてエリクソニアン・アプローチは「わらしべ長者」的だ。そこに現れるもので使えるものは次々と活用していく。要は、無いものを求めてもしかたがない。今ココにあるものをどう上手く資源として活用できるかを考えることになる。使えるものは何でも使う。もちろん、問題や障害なども見方を変えればそれは資源として活用できる何かに変わる。ただし、これはポジティブ・シンキングとは違う。あくまでも現実にあるものを使うというプラグマティストの視点が必要だからだ。最後に煮詰まったら「無知の知」を使ってみることだ。人事を尽くして天命を待つ、ではないが。ある程度やれことをやった後で、無意識を信頼し「私の意識は、私がその問題解決の資源をどのように見つければよいのか分かっていません。私の無意識はそれが分かっています・・・・」と意識−無意識のスプリットを使ってメタ認知で達観してみることだ。映画フィールド・オブ・ドリームスではないが「If you build it  he will come ....」のセリフに含まれるアブダクション意味も分かってくるだろう。

《理想の状態の認識》


 ここにもパラドクスがある。「枠組みを超えて経験したことのない状態が、コーチング中にどのようにして分かるのか?」という命題だ。なかなか禅的で面白い。理想の心身状態になったことはそれを経験した時でないと分からないだろう。しかし、もう少し大きなレベルでそういった状態がいつかくるかもしれない、と意識しておくことはできるはずだ。結局、これは試行錯誤しながら気づくしかないということになるだろう。

  Collected Papers の p.22あたりに、ミルトン・エリクソンとアーネスト・ロッシの面白い会話がある。エリクソンの理想の心身状態を語ったくだりだ。もちろん、これは心理療法の学術論文に引用されている会話だ。


E: It was one of the most pleasing experiences. What is this? Tremendous comfort. I knew that I was doing something far-out. And I was really doing it! And what greater joy is there than doing what you want to do? Inside the stars, the planets, the beaches. I couldn't feel the weight. I couldn't feel the earth. No matter how much I pushed down my feet, I couldn't feel anything. 

エリクソン:それはもっとも愉しい経験のひとつでした。これが何かって?素晴らしい快適さです。私は何か現実離れなことをしていたことが分かっています。そして、わたしは実際にそれをやっていたのです。それはあなたがしたいことをやるよりももっと大きな悦びじゃないですか?恒星の中、惑星の中、海岸の中。私は、重さを感じませんでした。地球を感じませんでした。足を押し付けても何も感じませんでした。

R: That sounds like a spontaneous experience of nirvana or samadhi wherein Indian yogis say they experience 'the void.' You feel that is so?

ロッシ:それはインドのヨガが「空」と言っているような、ニルヴァーナやサマディーを自発的に経験したように聞こえますが? 

E: Yes. The far-out experience of negating all reality-related stimuli. 

エリクソン:はい、そうです。現実に関連したすべての刺激を否定するはるか遠い経験です。

R: That's what the yogis train themselves to do. 

ロッシ:それはヨガが自分自身を訓練するものです。

E: Yes, just negating the stimuli from the reality objects. 

エリクソン:はい、現実の物体からの刺激を否定しているだけです。


 
 これを読むと、「なんだ、エリクソン覚っているじゃん」(笑)、ということなのだが、2人の学者で心理療法家がメタの視点で淡々と話しているのが面白いところなのだろう。ただ、理想の心身状態と言った時に、この文献を引くこのレベルを示唆していることが分かるのがますます興味を惹くところでもある。そして、理想の心身状態といった時の究極は、コーチにしてもクライアントにしても、達成できないことが分かっていてもこのエリクソンのレベルに設定してみるのも面白いのだろう。

 結局は、有無が同時に存在しても問題にもならない「空」かよと。

 エリクソンの技法はうっかり覚ってしまうくらい禅的だ。もちろん、現状から理想へ遷移する途中の状態としての「空、サンスクリット語で(Śūnyatā)」は大いにありなのかもしれない。
 

3月19日の進捗、624ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 23.6%) 

Volume 2 : HYPNOTIC ALTERATION   OF SENSORY, PERCEPTUAL    AND PSYCHOPHYSIOLOGICAL   PROCESSES

A Study of Clinical and Experimental Findings on Hypnotic Deafness: II. Experimental Findings with a Conditioned Response Technique 
Milton H. Erickson Revised and enlarged from a report given before the American Psychiatric Association at St. Louis, May 6, 1936; reprinted with permission from The Journal of General Psychology, 1938, 19, 151-167. 

Chemo-Anaesthesia in Relation to Hearing and Memory
 Milton H. Erickson Reprinted with permission from The American Journal of Clinical Hypnosis, July. 1963, 6, 31-36. 




(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html


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