2017年4月23日日曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 113日目


                                                                                                                            
 ベイトソン曰く、

 世の主たる問題は、自然の摂理と人の思考の差異によって生じる結果である。

 これは、「全体」としての自然と、「部分」としての人の齟齬に他ならない。

 <ひとりごと>



はじめに

 備忘録として、



 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 113日目について書いておきたい。


催眠による健忘、記憶喪失に関する研究

 「The Problem of Amnesia in Waking and Hypnotic States(1960's)」から。著者はミルトン・エリクソン+アンドレ・ウィゼンホファーで出稿予定だった論文。

   個人的な話で恐縮だ。小学校4年の時、新築の家に引っ越したので、家族と植木市に行って松の種を買ってきた。その種を植えたらいくつか芽が出た、爺さんになった時に盆栽でも、と思って植えた種だ。しかし、小学生のことだ、いつしか忘れてほったらかしになってしまっていた。ある時、実家に帰ってそれを見たら松は盆栽にはできないくらい普通の木に育っていた、もちろん自分はまだ爺さんではなくオッサンにしかなっていないにも関わらずだ(笑)。

 私の場合とは違うが、エリクソンはいくつもの種を植え、木を育てているようなところがある。1960年代にアンドレ・ウィゼンホファーと共著で書こうとしていた、(催眠とそうでない場合の)健忘、記憶の喪失と暗示に関する研究もそうだ。

 エリクソンは1922年あたりのウィスコンシン大学在学中から学術的な催眠の実験、この表の真ん中の標準的なアプローチを使って催眠の実験を始める。そして、ここでの論文も40年間、エリクソンが臨床の場面で実際に観察と実証を続けていたことの一つということになる。エリクソンの論文を読んでいて思うのは、いくつもの種を撒き、それを非常に長い期間に渡って育て続け、気がつくと、林なり森が出来ているという研究スタイルになっていることだ。

 種をいくつも植え、毎日少しづつ世話をし、全てではないにしろ、時間をかけて大きな木に育てていく。これはなかなか普通の人にはできないことなのだろう。

 そのような論文の一つがこれだ。もちろん、エリクソン場合は実際にやってきたことの足跡として論文が残っているような格好になっている。

 さて、催眠によってトランス状態に誘導された場合、特定の記憶が消失する現象が知られている。例えば、Wikipediaに「Posthypnotic amnesia」という項目が設けられ学術的に研究されていことでもある。もっと正確にいうと、トランス中に起こったことの記憶が喪失する場合、トランス誘導によって過去の記憶の一部が、トランスが覚めた後に喪失する場合などがある。

 この論文では、現在経験している記憶を時間が経過した時に覚えているか?ということになるが、このバリエーションとして、催眠状態+暗示の時、普通の覚醒状態+暗示の時とで比較実験している。それに暗示は、直接暗示、間接暗示の場合とで両方実験している。

 エリクソンはトランス誘導を使うとある程度の高い確度で記憶を喪失させるコントロールが可能がとしており、ここでは上のバリエーション違いについて、違いや課題を考察しているのがこの論文ということになる。

・・・・・・・・・・・・・

 まだ途中だが、個人的には、健忘は記憶のインデックスであるメタ記憶に働きかけるのは単に神経科学の話だとは思っているのだが、具体的な技法も含む実践として論文を読むと非常に面白いなと思った次第だ。もちろん、日常の覚醒状態で間接暗示を変な方向で使うと単に「時そば」みたいなことになってしまうのだろうが(笑)。

・・・・・・・・・・・・・


随考

 エリクソンを研究する上で欠かせないのがシステムの視点だ。理由は、エリクソンは自身の技法を形式知として体系化しなかった、つまり暗黙知だけがあることになる。また、実際に形式知化したのはグレゴリー・ベイトソンらということになる。ここで形式知化に使われたのは第二次サイバネティクスということになるが、もっと簡単にいうとシステム・シンキングということになる。もちろん、ここで言うシステムは歯車同士が緻密に噛み合って動く機械的なシステムではない、飯を食べれば、恋もする生命を持ったシステムのことだ。だから第二次サイバネティクスを使う。

 つまり、ベイトソンたちによって体系化されたエリクソンを理解するにはシステム・シンキングの理解が必須ということになる。もちろん、これでエリクソンの暗黙知を理解できるというわけではないが、少なともエリクソンを社会科学の範疇の怪しくないところで扱うことはできる。

 もっというとシステム・シンキングをくぐらせることでエリクソンの技法が家族療法をはじめ、企業組織のマネジメントや様々な問題・課題の解決に対してオカルトに陥ることなく、システムの全体最適化をゴールとして活用できることになる。具体的には人や組織の関係性に介入する知見が得られる。

ここでも書いたが、一例をあげると、自分の認識や組織に内在するパラドクスの問題はシステム・シンキングでこそ詰将棋のように解くことが可能になる。少なくとも、「白か黒か?」「一か八か」のような極端な二項対立の思考や、「もぐらたたき」のような目先の局所最適化の思考に陥ることを防ぐことはできるだろう。さらに円環的因果関係を理解すれば、世の中が様々な「結ばれあうパターン(Pattern that connects)」で成り立っていることが理解できるようになるのだろう。新しい関係性を発見することで新しい世界がみつかる。

 さて、ネットに「Pattern Thinking, Systems Thinking, and Complex— Transferrable Learning in Education for Sustainability」というのが落ちていたが、これが非常に簡潔にまとまっていて嬉しい。要点は以下だ、
  • 特徴
    • システムシンカーはジェネラリストである
    • システムシンキングは特異な世界観とパラダイムを持っている
  • 焦点
    • 全体の視点:システム全体を考える
    • 関係性:部分、部分とプロセスの関係性
    • フィードバック・ループとその他非線型のプロセス:これらの情報の流れにおける規則と適用を考える
    • 変容:変化と変容のプロセス
    • 部分と全体:ただし、全体は部分の総和より大きくなる
    • 関係性と有効性:結果や成果よりも重要視される
    • 非線型指向:円環、発散、収束が重要視される
    • 質問の重要な役割:焦点化と差異の明示
    • 二極化:緊張、ジレンマ、対立の視点を調べる
    • モデル化:モデル、原理、原則を開発する
    • 評価:前提、仮定、変数、品質、状態を疑う
    • 確率論的:不規則変動、不規則なシステムはシステムシンキングに重要
  • 課題
    • 「差異」が理解に重要な役割(「差異」による「情報」の定義)
    • 適者生存(個人的には創発的な適応を考慮)
    • 多重の視点(ベイトソンの二重記述、多重記述)
    • 境界の問題(人工的につくられたシステムの境界、盲人の杖の境界)
    • 「差異」に基づくシステムの自己同一性
    • 不確実性がシステムの要素の一部
    • プロセス、変数等の複雑性
    • 安定性、ただしゴールや成果物ではなく非線型の関係に基づく(オートポイエーシス)
 こう考えると、ミルトン・エリクソンを取り巻く状況もエリクソン個人というだけではなく関係者を含むエコ・システムとして見ないと見えてこないようなものがあるようにも思ってくる。そう考えると、エリクソンとウィゼンホファーがどのように関係していたのかも興味は尽きないところだ。

4月23日の進捗、900ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 34.0%)

Volume III
HYPNOTIC   INVESTIGATION OF   PSYCHODYNAMIC PROCESSES

The Problem of Amnesia in Waking and Hypnotic States Milton H. Erickson Unpublished manuscript planned with André Weitzenhoffer, circa 1960s.


(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html

記事の内容の正誤について、執筆者は一切保証いたしません。また、本書の内容、エクソサイズなどを実行した結果被った被害などについて著者は一切責任を負わないこととします。本ニュースレターの内容は、以下クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに従うものとします。但し、引用元の著作権は引用元に所属します。ご意見、ご感想は次へ tritune'`@''gmail.com
https://www.facebook.com/Okirakusoken-236949276723679

――

0 件のコメント:

コメントを投稿