2017年5月26日金曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 146日目


                                                                                                                            
    エリクソン、ベイトソン派生の

 ミラノ派家族療法を組織開発に使うのは、とても、格好がよい。

 要は、個人でも組織でも変化の本質は変わらないということだ。


   <ひとりごと>




はじめに

 備忘録として、



 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 146日目について書いておきたい。


実験として誘発される神経症のための複雑なストーリー
 
 「The Method Employed to Formulate a Complex Story for the Induction of an Experimental Neurosis in a Hypnotic Subject (1944)」のつづきから。著者はミルトン・エリクソン。


昨日の続きで、エリクソンが催眠状態でクライアントに語りかけている言語パターンをエリクソン自身が解説しているところが続く。ただし、分析の枠組みとして、統語論でもなく、語用論でもなく、意味論でもないので、エリクソンが考える感覚的な話となる。これを面白いと見るのか?否かは読んでからのお楽しみとなっている。

・・・・・・・・・


随考

―― なぜ組織開発なのか?――
   
 プロジェクトマネジメント等の仕事に長年従事していると面白いことに出くわす。それは、スーパースターのように個人としては能力が高くても、組織になると、途端にパフォーマンスが低下するという現象だ。反対に、一人ひとりはそれほど能力が高くなくても、チームになると個々人の総和以上のパフォーマンスを発揮することがある。このように「個別最適 vs. 全体最適」は中々難しい問題だ。だから、個々人の能力を向上するというより、組織全体としての力を上げる「組織開発」に走る企業のトレーニング・マネージャの気持ちも分からないではない。

 ―― 組織開発の何かよい方法論はないか?――

 「組織開発」をテーマにした「Systemic Consultancy in Organization (2005)」は、とても良い本だ。この目的は、組織の成長、変化、学習といったことだが、実際ファシリテーションで活用されている方法がMRIとミラノ派家族療法となっている。


 事例として人員削減した企業が企業文化を壊さずに維持する方法が掲載されている。一般的に、企業が人員削減を始めると、残って欲しい人間が真っ先に転職し、残って欲しくない人間が最後までしがみつくようなことが起こる。また、人員削減が繰り返されると起こるのはその企業文化の破壊につながる。これは、その会社がその会社でなくなってしまうので非常に厄介なことだ。

また、何かプロジェクトを始める前のプロジェクト組織のチーム組でメンバーがお互い深く理解してより有機的で目的志向で自律的なチームを組むなど、中々深いテーマが含まれている。やはり、トップダウンで上意下達で動くような組織は自立性にかけ、逆説的に、意思決定や打ち手を実行するスピードも遅くなる。

ここには含まれていないが、合併した企業の文化の統合(ポスト・マージャー・インテグレーション)などにも有効だろう。一般的に対等合併などで複数社が合併すると、企業文化というのはぐちゃぐちゃになってくる。

―― なぜ、組織を扱うのは難しいのか?――

 それは、組織は生き物だからだ。それだから機械論的な技法をそのまま当てはめてもうまくいかない。壊れたから機械部品を交換するようなことにはならない。例えば、欧米流に人員削減を始めると企業文化が壊れるのも、組織や人を機械の部品として扱っているようなことになっているからだ。逆にいうと、本書は、そうならないように以下のような有機的なシステム論的手法を当てはめて手法が構築されていることになる。個人的に好みとしているところそのままだ(笑)。

 ・経済学/エコロジー ドラッカー、カプラ
 ・構成主義 ハインツ・フォン・フォルスター
 ・自然科学ベースのシステム論 ベルタランフィ、マトゥラーナ、カプラ
 ・ミラノ派家族療法 パラッツォーリ
 ・精神分析 フロイト
 ・組織の動力学 レウィン、リンドナー
 ・コミュニケーション理論 ベイトソン、ウオツラィック
 ・社会学 ルーマン
 ・その他 

―― 機械論的世界観と(生物論的)システム論の世界観はどう違うのか?――

 それぞれの世界観の違いは以下だ、無生物を扱う時は、機械的世界観でもよいが、生き物を扱う時はシステム論的世界観が必須となってくる。

機械論的世界観
システム論的世界観
客観性、一つの真実、固定化された法則
構成される現実、複数の真実、あれこれ
良いか悪いか、白か黒か
状況依存、有用性、関係性
(外部からの)コントロール
自律的、自己組織化
直線的因果関係
円環的因果関係、多重のやり取りと相互作用の結果、フィードバック・ループ
定量的、計測可能、固定化された差異
定性的、差異自身が差異を産む変化
直線的前進と変化
発達、変化と維持、制約の解除
正式な論理、矛盾はなし、不要は除外
矛盾の統合、不要でも除外しない
純然たる事実、合理的な関係
ハードとソフトの要素の統合(感情、直感、コミュニケーションプロセス)
役割:指導者、主導者、操作者
役割:モチベーター、調整役、イネーブラー、開発のガイド、コーチ
方法論:指示、指揮、命令、試行錯誤
方法論:傾聴、質問、ダイアローグ、討論、内省、学ぶことを学ぶ(ダブルループ・ラーニング以上の学習)

 もちろん、機械的な業務プロセスとシステム論的なプロセスの統合をはかる必要がある場合もある。だから、単純にどちらがよいという二項対立ではない。二項対立の「白か黒か」の思考自体がシステム思考を難しくしているところがある。また、普通のエンジニア諸氏は機械的な思考をしているだろうから、組織を扱う場合はある種のパラダイムシフトが必要になるのかもしれない。逆に言うと、システム論的世界観を身につけると方法論の適用範囲が人や組織に広がるということでもある。

―― 本書の方法論はエリクソン派生のシステム論的方法論 ――

 それで、本書にある組織を対象としたファシリテーション、コーチングの方法についてMRIとミラノ派家族療法を使っているのが一つのポイントだ。簡単にいうと生き物を生き物として扱う方法論だということだ。

 両方ともエリクソン→MRI(ベイトソン)→ミラノ派となるので一貫性もあるし、個人的には両方使える(つもり)なので、その意味ではとても嬉しい。要は、組織あるいはそこで働く人の認識の枠組みや行動の変化を志向した方法論と技法ということになる。上手に活用すると、エリクソンのような催眠を使わなくても、既存の認識の枠組みを越えたウオツラィックのいう第二次変化 (Second Order Change )に導けるということだ。

 ミラノ派家族療法を家族療法として活用している人は居るかもしれないが、これをベイトソンなどを理解した上で組織開発などで活用している人はそう多くはないだろう。家族も企業組織も生き物と考えれば、その適用にあまり違いはないということだ。その意味では本書で紹介されている方法は付加価値が高いのだろう。

 私自身は、医者でも臨床心理士でもないので心理療法は対象外にしているのでやはりココらへんの分野が本業の一つとなっている。もちろん、ファシリテーションやコーチンでうっかり心身状態がよくなっても、副次的な成果としてはありだ(笑)。もちろん、心身の調子が良くなる方法というのは人に優しく理にかなっているということではあるのだろう。

―― 本書ではタイムチャートやワークシートが提供される ――

 内容は結構細かく書いてあって、実際に使えるセッションのタイムチャートやワークシートが入っているのでこれも嬉しいところだ。グループに分かれて行う、ダイアローグやファシリテーションではミラノ派家族療法を使って各自の認識の齟齬を統合していくような格好で、日本ではお馴染みの「和をもって尊しとなす」という感じになる。

 ―― エリクソンとベイトソンを理解しておけば方法論は使えるのか?――

 エリクソンとベイトソンあたりをそれなりに深く理解しておけば、このあたりの方法論の理解と実践にはまったく支障がないことが今日のオチということなのだろう。結局、原理原則の応用に過ぎないのだろうし、これが分かればエリクソンとベイトソンからボーナスを受け取ることができる。こういうところでも実は「エリクソニアンの着包みを着たベイトソニアン」という自己認識は案外役に立つ(笑)。この方法がまるで自分のためにこのオーストリア人著者たちがオーダーメイドでつくってくれたような感じがしないでもない。

     それで、今まではプロジェクトでこっそり実践していたところがあるのだが、もう少し表立ってワークショップでもやってみるかなぁ?とは思っているところだ。

5月26日の進捗、1150ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 43.4%)

Volume III
HYPNOTIC   INVESTIGATION OF   PSYCHODYNAMIC PROCESSES

The Method Employed to Formulate a Complex Story for the Induction of an Experimental Neurosis in a Hypnotic Subject Milton H. Erickson Reprinted with permission fromThe Journal of General Psychology, 1944, Vol. 31, 67-84.






お知らせ:

ミルトン・エリクソンの本質を突き詰めたから分かったことがあります。

 組織のパラドクスを解消し、組織の認識、行動の変化を支援する、
「変化・創発ファシリテーション」のオンデマンド、オンサイト講座を開始いたします。

詳細は、こちらから。


(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html


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