2017年5月21日日曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 141日目


                                                                                                                            
 エリクソンの技法でメタファーとユーティライゼーションが使えないのは、

 Jazz でいうと、

 Fのブルースで格好いいインプロビゼーションができないようなものだな(笑)。

   <ひとりごと>




はじめに

 備忘録として、



 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 141日目について書いておきたい。


言葉からの連想と動作、感情の反応
 
「Study of Hypnotically Induced Complexes By Means of the Luria Technique (1934)」
から。著者はポール・ヒューストン、ディビッド・シャコウ、ミルトン・エリクソン。

 これは初期のエリクソンの論文だがかなり真面目に心理的なテストを行っている様子が分かる。

 概要を書いておくと、こうだ。方法としてはルリア法を使う。ここではルリア法は手のひら等の動作を使い感情の葛藤を解消する方法とある。そして、まずは被験者から話を聞く、ここで出た単語を色々洗い出す。まずは、覚醒した状態で、ここで出た単語を被験者に話、言葉と同時にタンブラーを握ってももらってその圧力など動作をキモグラフで測定する。
 
 また、この被験者を催眠状態にして同じ単語にどのように反応しているか比較をする。

 簡単にいうとこんな感じだ。実際には実験なので細かい条件があるがここでは詳しくはかかない。

・・・・・・・・

 で、サマリーは以下。

情緒的葛藤を検出するルリア法の妥当性をテストするために、ルリア法の実験の1つが繰り返された。固定観念は催眠的に誘発された。言語的、自発的、不随意的、および呼吸応答の視点で調査された。 4人の男性被験者と8人の女性被験者を用いた。得られた結果と示唆された解釈は以下。

  1. 9人の被験者がストーリーを受け入れたという証拠は、彼らがしたことを彼らに伝え、それに深い反応をもたらしたという証拠があった。
  2. これらの9人の被験者のうち6人において、ルリア法のいくつかの非言語(運動)側面が、催眠状態または覚醒状態のいずれかで葛藤の存在を明らかにした。催眠状態のこれらの被験者は、一般に、比較的少数の非言語障害を伴う確執に明確に関連する口頭の応答を与える傾向があった。覚醒状態では、非言語障害の相対的重要性は口頭で増加した。この仮説は、「表出のレベル」が存在する可能性があることを示唆しているので、確執によって生じた興奮が口頭で吐き出されなければ、自発的かつ非自発的な運動レベルへの広がりがある。この仮説が示唆するところは、ルリア法の運動面の時には確執の存在を明らかにしないかもしれないということだ。
  3.  他の3つのケースでは、ストーリーを受け入れた被験者が、ルリア法が確執の存在を明らかにしたという証拠は欠けていたか、または疑わしい特徴を備えていた。これらの3つのケースは、人の葛藤が言語反応に及ぼす影響を特に参考にして議論されている。
  4. 固定観念を受け入れることを拒否した3人の被験者からの結果は、被暴行行為は、被験者が自身の参加を妥当に考え得るような性格でなければならないことを示唆している。
  5. 同じ被験者の反復セッションから収集されたデータは、主に第1セッションに多数の運動障害として現れ、繰り返し時に減少する「ショック」効果があることを示している。この「ショック」効果は、このタイプの実験における有効な結論を引き出す前に、適切に評価されなければならない。
  6. 彼が奮闘していた間に同じ個体の反復実験セッションでは、日常的な運動障害の漸減が見られ、「不安定な」因子または忘却因子が指摘された。
  7. 実験の他の理論的意味合いが議論され、ルリア法によってアプローチできる可能性のある問題のリストが含まれる。

 この時期のエリクソンたちはパラメータをちょこまか変えて、かなり気の遠くなりそうな実験を粛々と進めているように思われる。この実験が後のエリクソンにどのように影響を与えているのは不明だが、エリクソンの技法が膨大な実証実験の結果から成り立っているのは間違いなさそうだ。


随考

    エリクソンを中心に1957年に設立され、現在も活動している臨床催眠の学会に「The American Society of Clinical Hypnosis」がある。この団体から提供されている学術誌が「The American Journal of Clinical Hypnosis」だ。

 エリクソンを調査する時は、ミルトン・H・エリクソン財団に加えて、上記の団体、あるいは提携団体からの情報が相対的に一番正確だろう。もちろん、学術論文は仮説も含み、追試を重ねて仮説が補強されていく格好になるので、絶対的な真理のようなものが書かれているわけではないが(笑)。

 さて、The American Journal of Clinical Hypnosisの論文に「Men Are Grass: Bateson, Erickson, Utilization and Metaphor」があり、これを再読してみた。要は、エリクソンはクライアントの介入にメタファーを使うが、このロジックと利用(Utilization)アプローチとの関係が説明されている論文ということになる。余談だがエリクソニアンのメタファーについては「Metaphoria」が網羅的で参考になるだろう。

 この論文のねらいは、
  • メタファーとユーティライゼーションの関係が理解できる
  • メタファーとユーティライゼーションが使えるようになる
 ということになるだろう。ユーティライゼーションはクライアントの望む変化のためには利用できるものは何でも利用する(もちろん倫理や法律に違反してはならないが)というアプローチだ。

 さて、この論文ではメタファーのロジックがグレゴリー・ベイトソンのいわゆる「草の三段論法」人間は死ぬ、草も死ぬ、故に人間は草である、で説明されている。もちろん、メタファーは心理療法の技法に限ったことではない、今までの枠組みにとらわれない、枠組みを越えた革新的な問題解決、のようなところで活用することができる。余談だが「のような」と書いている時点でこれもある種のメタファーではあるのだが(笑)。

 一般的に人が意味付けを行う場合は3つの方法がある。演繹、帰納、そしてアブダクションだ。メタファーはアブダクションによる意味付けということになる。Wikipedia にある Abductive Reasoning がこのアブダクションにあたる。難しく書くとこうだが、実際には大喜利のなぞかけのロジックで既存の枠組みにとらわれない関係性を見つけるのがこれにあたる。このあたりで書いた。

 逆にいうと催眠でありがちな「催眠状態にして暗示を入れます」というような程度の理解ではあまりにも漠然としすぎて意味をなさないということが分かってくるだろう。これではエリクソンは理解できない。エリクソンの間接暗示は、アブダクションのロジックで新しい関係をみつけ、経験を再構築して新しい枠組み、新しい行動、新しい意味を見つけていくアプローチだからだ。

   この論文の事例としては、おねしょが治らない子供に普段の筋肉の使い方を語る話、ジョーという末期がんの患者にトマトを育てる話をして疼痛を和らげる話・・・というのがあったが、日常生活で利用できる資源・資質(リソース)をどのようにメタファーで結びつけ、問題解決に利用しているのか?この背景にある、意識にあがらない間接暗示の理屈について認知言語学まで持ち出して説明されていることになる。あくまでも日常生活で知覚で経験しているというのがポイントなのだろう。資源・資質(リソース)は日常生活にこそ転がっているという具合だ。余談だが、アブダクションというと宇宙人にUFOで拉致される話を連想する人もいるかもしれないが、発想がトンデモない方向に飛ぶという共通的を除いては直接は関係ない(笑)。

 また、一見エリクソンの不思議に見える技法には、種も仕掛けもある話だということだ。この手品の種が分からないと堂々巡りを繰り返すことになるだろう。要は、単にメタファーを使えばよいというのではなく、精緻にメタファーを使う必要があるということだ。ただし、メタファーは粒度が粗く意図的に曖昧に関係性を示唆している格好になるので、普通の人からはいい加減に見えるというパラドクスはあるのだが(笑)。
 
 オマケだが、第12回のエリクソン国際会議でのプレゼンテーション資料「Utilization: Principles & Practices」がネットにリンクされているが、さらにユーティライゼーションについて理解を深めるにはこの資料を読んで見るのもよいだろう。

 ユーティライゼーションは日常でも応用可能だ、

 電車で足を踏まれても、イライラせずに何か面白いメタファーで返しができないか?

 会議で立て続けに携帯を鳴らしている参加者がいるが、面と向かって注意をするのではなくて、何か面白いメタファーで返しができないか?

 と考えてみると面白いだろう。Wikipediaの海上自衛隊の練習艦かしまの項目に面白いエピソードが載っている。これをユーティライゼーションとメタファーの応用例として読むと面白いだろう。

1995年から練習艦隊の旗艦として遠洋練習航海に参加し、2000年の遠洋練習航海では、アメリカ独立記念日を祝う洋上式典に参加するために訪れていたニューヨークの港内において「クイーン・エリザベス2号」に接触されたが大きな被害はなく、同船船長の代理で謝罪に訪れた乗組員の機関長と一等航海士に対し、(当時の)練習艦隊司令官の吉川榮治海将補は、「幸い損傷も軽かったし、別段気にしておりません。それよりも女王陛下にキスされて光栄に思っております」とウィットに富んだコメントを返し、『テレグラフ』紙[や『イブニング・スタンダード』紙でも報道され語り草となっている。
 
 模範解答的な、メタファーとユーティライゼーションということだ。

 
5月21日の進捗、1112ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 42.0%)

Volume III
HYPNOTIC   INVESTIGATION OF   PSYCHODYNAMIC PROCESSES

Study of Hypnotically Induced Complexes By Means of the Luria Technique Paul E. Huston, David Shakow, and Milton H. Erickson 1 Reprinted with permission from The Journal of General Psychology, 1934, Vol. 11, pp. 65-97.





お知らせ:

ミルトン・エリクソンの本質を突き詰めたから分かったことがあります。

 組織のパラドクスを解消し、組織の認識、行動の変化を支援する、
「変化・創発ファシリテーション」のオンデマンド、オンサイト講座を開始いたします。

詳細は、こちらから。



(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html


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