2017年6月3日土曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 154日目


                                                                                                                            
 
   質問だけでクライアントの変化を支援できなかったら、

 催眠を使ってもクライアントの変化は支援できない。

      催眠は演出に過ぎないからだ。

   <ひとりごと>




はじめに

 備忘録として、



 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 154日目について書いておきたい。

催眠:治療方法としてのルネサンス

「Hypnosis: Its Renascence as a Treatment Modality Milton H. Erickson Reprinted in The American Journal of Clinical Hypnosis (1970)」つづきから。著者はミルトン・エリクソン。

―― 戦争の功罪 ――

 この論文で触れているが、催眠の普及について、戦争の功罪を考えさせられる。

 第一次大戦は、1914年にバルカン半島のサラエボでハプスブルク家の皇太子フランツ・フェルディナンドが妃とともに拳銃で暗殺されたという事件から始まる。この戦争がそれまでと異なるのは、総力戦になったということだろう。そして、ヨーロッパを巻き込んだ血みどろの争いに発展する。そして、その後の日本陸軍の統制派の考え方にも大きな影響を与えることになる。

 そして、毒ガス、砲弾の雨と第一次大戦は限りなく続くが、当時の名称はあくまでも「The Great War 」、つまり大戦争ということになる。第一次大戦と命名されたのは第二次大戦が起こったからだ。

 第一次大戦中、ドイツは薬品がないことから催眠を使いはじめる。用途は麻酔の代わりという具合だ。もちろん、元々はフランツ・アントン・メスメルあたりからの蓄積があったのだろう。しかし、戦争における実証実験で効果が実証されるところはある。その後、戦争が終わると、ドイツの影響を受けた催眠がヨーロッパ各地に広がっていく、こんな流れだ。

 また、1939年になると、再度ドイツのポーランド侵攻を皮切りに第二次大戦が勃発する、ここに米国も日本も参戦し、世界大戦が勃発することになる。この時も英国などでは、麻酔の代わりに催眠が使われたことが指摘されている。もちろん、英国は元々、ジョン・エリオットソン、ジェイムズ・ブレイド、ジェイムズ・エスデールらの蓄積はあったということだろう。

 そして、戦争が終わっても、実証的な効果から、それが普及していく。そのような流れがある。そして、麻酔から戦争の後遺症である精神障害へと応用が始まっていくことになる。

―― 催眠学会の設立 ――

 米国の流れが書いてある。

1949年に、実験的な催眠を扱う「The Society of Clinical & Experimental Hypnosis」が設立。

1957年に、「The American Society of Clinical Hypnosis」が設立される。

 おおよそ、このような流れになる。


随考

 
―― 人の変化をどのように支援するのか?――

 個人的に、心理療法家のミルトン・エリクソンがクライアントの変化をどのように支援していたのか、は非常に興味のあるテーマだ。

 これをもう少し細かくすると以下の3つの点に分けられるだろう。

  • クライアントから、どのように情報収取していたのか?
  • クライアントの世界観をどのように見立てていたのか?
  • クライアントの認識や行動にどのように介入していたのか?

 エリクソンというと、条件反射的に「催眠」と思ってしまうが、これは要注意だ。理由は、催眠導入に成功しても、適切な介入がないと変化は起こらないからだ。つまり、覚めれば元の木阿弥ということになる。

―― 2種類の質問が変化を導く――

   ネットに「Utilizing Projective and Circular Questioning with Female Middle and High School Students to Reduce Anxiety」というタイトルの興味深い論文がアップロードされていた。エリクソンがどのように介入していたのか?を考える上でも非常に参考になる論文だ。

 内容は、不安を抱える女子高生に対するカウンセリング。個人的に興味深いのは、基本的に2種類の質問だけを使って不安の低減のカウンセリングを行っていることだ。もちろん、学術的に怪しい部分を取り除いていくとこういった方向に進化せざるを得ないという事情もあるだろう。そして、その質問とは以下だ。

  1. プロジェクティブ・クエスチョン
  2. 円環的質問

「プロジェクティブ・クエスチョン」とは、いくつかの言葉や言葉で答えることができ、個人に感情的意義を持つ可能性のある異常な出来事や経験を扱う、オープン・エンドな質問だ。マーケティング・リサーチなどでも使われるので知っておいても損はない。

 また、「円環的質問」とは、人類学者のグレゴリー・ベイトソンの各種システム論の影響を強く受けたパラツォーリらのミラノ派家族療法が用いるようになった質問だ。例えば、家族療法セッションの各参加者は、他の家族との関係や相違点について意見を述べるように求められる質問となる。

―― 2種類の質問を中心に対話を行う ――

 内容は、これらの2種類の質問を丁寧に聞いているだけだが、不安の低減に効果があったことが報告されている。個人的には、ミラノ派家族療法、あるいはカール・トムの質問システムの一部を丁寧に使って質問をしているというような認識で見ている。

 余談だが、遡るとエリクソン→ベイトソン(MRI)→ミラノ派家族療法→カール・トムの質問、ということになるので、結局、エリクソンにたどり着くというような具合だ。エリクソン派生ではあるが、明示的な「催眠」を使わずに質問だけで変化が起こせるようになっている、というのが今日の論文からの学びだろう。もちろん、エリクソンの技法を第二次サイバネティクスをくぐらせて形式知化しているので、この種のシステム論を使ったというセンスのよさはあるだろう。

 余談として、ここに敢えてエリクソン的なアプローチを行いたい場合は、情報を収集した上で、エリクソニアン・アプローチを使えばよいだろう。例えば、「催眠導入」とメタファーによる介入というようなことだ。このあたりで書いた。円環的質問などで情報収集の精度も上がっているはずなので、システム論的に変化の「レバレッジ・ポイント」に介入できる精度も上がるだろう。

 もちろん、このあたりはカウンセリングに限らず、クライアントの現状の「認識の枠組み」や「行動」を越えた変化をコーチングやファシリテーションを通して実現できる技法でもあるので知っておいても損はないのだろう。

 そう考えるとサイバネティクスをくぐらせたよく出来た質問はそれだけで変化を導くことができる。
  
6月3日の進捗、1212ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 45.8%)

Volume IV
INOVATIVE HYPNOTHRAPY

Hypnosis: Its Renascence as a Treatment Modality
Milton H. Erickson Reprinted in The American Journal of Clinical Hypnosis, 1970, 13, 71-89, with permission of the original publishers: Merck Sharp & Dohme,Trends in Psychiatry, 1966, 3(3), 3-43.





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(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html


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