2017年7月15日土曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 196日目


                                                                                                                            
 
  安定を指向したプロセスを回しても、

  現状の枠組みを超えた解決策は導きだせない。

   <ひとりごと>




はじめに

 備忘録として、



 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 196日目について書いておきたい。

心理療法における心理的ショックと創造の瞬間

「Psychological Shocks and Creative Moments in Psychotherapy (1973)」著者はアーネスト・ロッシ。

 この論文は、アーネスト・ロッシがミルトン・エリクソンやエリクソンの妻のエリザベス・ムーア・エリクソン(略称ベティ・エリクソン 、次女のベティー・アリス・エリクソンは、ベティ・アリスと呼んで区別する)から録音機を駆使して聞き取り調査を行いそれをまとめた論文だ。

 あまり大きな声では言えないが、初期にエリクソンが書いた論文はかなり小難しいことがダラダラ書いてある印象だ。しかし、ロッシと組むようになってからは、要旨が整理されてかなりムダな部分がなくなっているように思われる。要は、ロッシは読者が知りたそうなエリクソンの秘密を引き引き出してまとめるのが非常にうまい。

 この論文は1972年にロッシがエリクソンの元を訪れ、過去50年間にもおよぶエリクソンの心理療法についての考えや事例などを録音し、それを論文としてまとめた内容だ。

 ここでのテーマは、心理的ショック。これが何も悪いわけではなく、エリクソンはクライアントの認識や行動のパターンを変えることを支援するために意図的にクライアントを驚かせるようなことを行った。もちろん、クライアントの安全や倫理には考慮する必要がある。ここでは、その事例がいくつか紹介されている。かなり面白い。
 
・・・・・


 
随考

 ―― 枠組みを超えた対処を指向するOODA ――
 
 近所の公園を散歩する。立て看板が目につく。日本ではこういった看板は案外論理学にしたがって書かれていないことが多い。



 そもそも論からすると、「許可されていることだけ、やってよい」のポジティブ・リスト方式で書かれているか、「禁止されていること以外は、なんでもやってよい」のネガティブ・リスト方式で書かれているか、の区別がされるべきだ。しかし、大抵はこれらがごっちゃになっている。これが、ここでの前フリの一つだ。

 サイバネティクス的には、ポジティブ・リスト方式は、ゴールに対して偏差を小さくする方向になるため自然とネガティブ・フィードバック・ループでの処理になり、ネガティブ・リスト方式はゴールに対して偏差を拡大する方向で回すためポジティブ・フィードバック・ループになる。

 一般的に、創造性を発揮するにはネガティブ・リスト方式を駆使する必要がある。もっとも、日本の公園は禁止事項が多すぎて、針の目を抜くような精度で創造性を発揮する必要がありそうだが(笑)。

 ここまでをまとめると以下だ。

方式
ネガティブ・リスト
ポジティブ・リスト
説明
禁止事項以外なんでもやってよい
許可事項だけやってよい
ループ
目標に対して偏差を拡大
(ポジティブ・フィードバック・ループ)
目標に対して偏差を縮小
(ネガティブ・フィードバック・ループ)
目的
創造性の発揮、枠組みを超えた対処
組織、品質の安定、計画に基づく制御
OODA
PDCA

 さて、刻々と変化する状況に対して、適切な状況判断をしながら物事を前に進めていかなければいけないような場面は多い。もちろん、これがチームで行うような仕事であればなおさらだ。サッカーや野球の試合からはじまって企業の法人営業や各種プロジェクト・マネジメントなどまで様々だ。相手や競合の出方によってこちらも対応を刻々と変化させていかなければならない。これは、心理療法やコーチングなどでもそうだろう。

 逆に言うと、情報をどのように把握して、何にどのように介入するのかにも役に立つプロセスが必要になるだろう。しかし、こういった状況把握や意思決定のプロセスはあまり意識されることはない。あるいは勝てば官軍、儲かればすべてよし、で後にそのプロセスが検証されることはほとんどない。

 Youtubeに面白い映像がある、このような意思決定のプロセスを形式知化した OODAというプロセスの説明だ。元々このプロセスは米空軍の戦闘に対して構築されたものだが、映像は医師が緊急の状況にチームとして対処する場合のプロセスとしての適用となる。ジョージ・クルーニーらが登場したテレビ・ドラマの『ER緊急救命室』をイメージしてもらうとよいだろう。ガイドラインを守って手順どおりにやっても患者が亡くなっては元も子もない場面での対処だ。ここで注意しなければいけないのは、OODAはネガティブ・リスト方式で動かされる。また、正常性バイアスに陥らないようにする必要があるということだ。


 災害や緊急時は、日常の常識の枠組みの延長で考えてはいけないということなのだろう。ある意味、常識の枠組みを超えてサバイバルしなければならないからだ。東日本大震災で校庭に集まって時間を浪費し逃げ遅れた小学生のことを考えると心が痛む。

   さて、OODAは刻々と変化する状況を考慮して意思決定することを指向したプロセスだ。明示的にはアジャイル開発の一つの方法論である Scrum の中で使われる。逆に、なぜScrum の中でPDCAではなくOODAが使われるのかを考えると、この方法論が何を指向しているのかがよく分かるだろう。

 もちろん、状況に追従するといっても、モグラ叩きのように単に現象を対処すればよいということではない。ここには当然、タメが必要になる。また、状況からリアルタイムで学習する必要があるダブル・ループ・ラーニングの形式を取る。

 SlideShareに面白いスライドがある。OODAについての考察だ。


    一番のポイントは、P.27あたりで Orient (情勢判断)のプロセスから観察者はサイバネティクスのポジティブ・フィード・バック(ゴールに対して偏差が拡大する方向で回す。要は、もっとやれ)を受けてこの方向を決定することだ。つまり、最初から常識の枠組みの外で判断することを指向しているプロセスということになる。例えば、官僚式に「前例がありません」はそれをやらないことの言い訳にならないということになる。ここでは、とにかく常識を超えて対処方法を考え抜くことになる。

 もちろん、このプロセスはネガティブ・リスト方式(禁止されていること以外、なんでもやってよい)を徹底する必要があるだろう。だから、ある意味、決められたことを決められた手順どおりにしかやらない、という官僚的仕事スタイルを打破するプロセスでもある。

 余談だが、最近は本家の米軍でもより意思決定をボトムアップかつ自律的に行えるようにネットワーク中心の戦いにシフトしているようだ。つまり、OODAを使うにしても、組織の階層が深くなり、意思決定のプロセスが数珠つなぎかつ複雑化すると状況に即した意思決定が難しくなるということだ。逆にいうと、OODAはできるだけフラットな組織で回したほうがよいということだ。これは日本の大企業も見習うべき点だろう。

   さて、ミルトン・エリクソンがOODAのようなプロセスを使っていたのかどうかは定かではない、しかし、本来既存の認識(の枠組み)を超えるような範囲で変化を起こす必要があるとすれば、絶対にPDCAを回すことにはならないだろう。日本ではアホな人間ほど状況や前提条件を考慮せずに、PDCAを回せ、と主張するが、サイバネティクス的にはこれが適したところと適していないところがあるのは自明の理ということになる。

 さて、日本の公園の立て看板にはクレージーとも言えるほど、禁止事項がてんこ盛りだ。しかし、反対に考えよう。ネガティブ・リスト方式で考えると、それ以外はやってよいということだからだ。そこに創造性を発揮できる余地が見えてくる。もちろん、それはOODAだからできることであって、PDCAではできないということだ。
 
7月15日の進捗、1546ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 58.4%)


Volume IV
INOVATIVE HYPNOTHRAPY

Psychological Shocks and Creative Moments in Psychotherapy Ernest L. Rossi This paper was written by Ernest L. Rossi who expresses his appreciation to Milton H. Erickson for providing the case material and inspiring the discussion of its theoretical issues. He and his wife, Elizabeth Erickson, have generously contributed time, effort and editorial experience in its preparation. Reprinted with permission fromThe American Journal of Clinical Hypnosis, July, 1973, 16, 9-22.





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(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html


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