2017年7月9日日曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 190日目


                                                                                                                            
 
  非営利組織のマーケティングは、利益が第一ではないので、案外深い。

  日頃、利益第一で考えている脳みそを洗濯する意味もある(笑)。

   <ひとりごと>




はじめに

 備忘録として、



 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 190日目について書いておきたい。

催眠療法の手順における時間の疑似的方向付け

「Pseudo-Orientation in Time as a Hypnotherapeutic Procedure(1954)」著者はミルトン・エリクソン。

 この論文はさり気なく深いことが書いてある。行間を読む必要がある。もっというと非常によい論文だ。

 エリクソンは、「心理療法におけるすべての試みは常に日常のさりげない経験を利用する必要がある。そして、日常生活に浸透しているクラアンとの言動や他人とのやりとりのパターンを理解し、クライアントひとり一人にユニークなニーズに合わせた形式でそれを利用する必要がある」と述べている。

 これは案外重要だ、クライアントは花を育てていたり、山登りを趣味としていたり、読書が好きだったりする。また、人との関係では、子供の世話をしていたり、家族と食事をしたり、くつろいだりということだ、あるいは極端に人付き合いが悪いといったことも。エリクソンはこういった日常の経験をよく観察し、そのさりげない経験を利用する必要があると言っている。別に突拍子もないメタファーを使う必要はない。極端な話、UFOに拉致される必要もないし、前世のようなオカルト話をする必要もないということだ。エリクソンの格好よさは、こういった日常の経験の話をしているようで、行間にきちんとメタ・メッセージやメタファーを詰め込んでクライアントに話している点だ。

 また、心理療法は実験的な側面を備えている。当然、社会科学的な分野であるため、実験室で有効だった理論を万人に当てはめたからといって万人に有効というわけではない。その意味、一期一会で、そのクライアント一人ひとりの状況に合わせて処方とこの実験的試みを続けていかなければらないということだ。

 そして、エリクソンが過去15年間に渡って効果を検証してきた技法がここで示されている。具体的には、催眠における「未来進行」だ。もちろん、上で書いた日常のさりげない経験を利用する形式で行われる。簡単にいうと、現在抱えている問題の治療上のゴールが未来のある時点ですでに達成されていると経験できるように催眠下で未来を疑似体験する技法だ。

   ただし、重要なポイントがある。催眠下で未来を疑似体験する際に、第三者的な視点で、乖離された状態で、自分がゴールを達成している様子を経験するということだ。つまり、認知科学でいうメタ認知した状態で未来のゴールを達成している様子を経験するということだ。案外、これは重要なことだ。これを無視してしまうとあまり効果はない。理由はメタ認知できるということは、現状の枠組みの外から未来のゴールを見ることができているということだからだ。

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 もっと、細かい技法が書かれているがここでは書かない。何れにしても、例えば、こういった概念がソリューション・フォーカス・アプローチに取り入れられると「ミラクル・クレスチョン」ということになるだろう。
 
随考

 ―― 非営利組織とマーケティングと――

 1959年、米国カリフォルニア州パロアルトに心理療法の研究機関であるMRI( Mental Research Institute)が設立された。設立から50年以上が過ぎた現在でも、MRIは同地に存在している。パロアルトはシリコンバレーと呼ばれる地域の中核都市の一つだ。そのためIT長者や投資家など富裕層が多く住み格段に治安のよい街だ。ただ、この地域に心理療法の研究機関が存在し継続しているのは意味深だ。CNNの記事を読むと、地域柄、ハードワークからくる精神疾患は深刻だということかもしれない。

 余談だが、日本でいうと白金台か成城のようなパロアルトのすぐとなりに柄の悪いブラックホールのようなイースト・パロアルトが隣接している。昔出張で行った時は、米国人の相方から「イースト・パロアルトには絶対立ち入るな」と言われたものだ。不思議なことだが、米国はこちらは天国、道を隔てた向こうは地獄のような白黒併設なところがある、これがアメリカのダイナミズムと言えばそうなのだろう。最近は、イースト・パロアルトにIKEAの大規模店舗が出来て多少は治安がよくなったとは聞くが。


 さて、同地までは、落語『黄金餅』風に書くとこうなるだろう。

 下谷の山崎町を出まして、あれから東京駅へ出まして。成田エクスプレス成田行に乗りまして。成田空港へ出まして。成田からサンフランシスコ国際空港まで飛びまして。サンフランシスコ国際空港から、高速鉄道でミルブレーまで一駅乗りまして。ミルブレーからサンノゼ行のカルトレインに乗り換えまして。パロアルト駅で途中下車しまして。サンノゼへ向かって左の出口から駅の外に出る。スタンフォード大を背にしてユニバーシティ・アベニューを600mまっつぐに下りまして。ミドルフィールド・ロードにぶつかったところで、右に折まして。それから、まっつぐ行ったところにMRIがございます。こじんまりしたアパートのような建物がある。その頃には随分くたびれた。庭には、今の時期、紫陽花が咲いていてよいところだ。

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 MRIには、グレゴリー・ベイトソンが在籍し、ミルトン・エリクソン等の研究を行った。もちろん、ドン・ジャクソン、リチャード・フィッシュ、ポール・ウオツラィック、ジェイ・ヘイリー、ジョン・ウィークランド、ジュール・リスキン・・・ヴァージニア・サティアらのスターたちが在籍し、短期療法の確立に大きな影響を及ぼした。MRIは、エリクソンの技法を、1)コミュニケーションのやりとり、2)現状-理想を埋める戦略、の2つの視点から研究することから始めた。別名、その地域の名前をとってパロアルト・グループとも呼ぶ。もちろん、短期療法で有名だが研究されているのはこの手法ばかりではない。例えば、現在、EMDRのフランシーヌ・シャピローがMRIに在籍している。

 前置きが長くなったが、本題に入る。現在のMRIの Webサイトのボードメンバーの顔ぶれを見ると面白いことが分かる。

 MRIが非営利の心理療法の研究・教育機関にもかかわらず、マーケティング・マネージャ、ビジネス・ディベロプメント・マネージャがボードメンバーに居ることだ。このあたりは非営利のマネジメントやマーケティングの理論なり実践なりが蓄積されている米国ならではだろう。

 もちろん、非営利の研究・教育機関であるので、普通の営利組織のように単純に売上が上がればよい、利益が上がればよいというわけにはいかない。日本では、自己啓発団体がやたらと一般財団法人を設立していることがあるが、有象無象のタケノコのように手当たり次第に設立するばよい、というのとは違う。

 一般的に非営利のマーケティングは自らのビジョン/ミッションを明示し、スポーンサーのファンディングおよびステークホルダーの支援を受け、サービスを必要としている人にそのサービスが届くようにきちんと戦略を考え実行する必要がある。営利企業に比べてスポーンサーとの関係がバラエティに富むので、そのマネジメントは案外面倒だ。

 また、ファイナス的に非営利組織には資本金という考え方がない。多少税制的な優遇措置はあるが、この状態でキャッシュフローはきちんと回しながら成長していかなければならない。そのため、構造的に自転車操業に陥りやすい。逆にいうと営利企業の資本金がどういう位置づけになるのかということが分かってくるのも面白いところだ。資本金からのリターンとしてROE偏重は問題があるにしても、やはり資本金の1円は企業が生き残るための血の一滴ということだ。

 SlideShareに「非営利組織のマーケティングの基本」について書かれたスライドがアップロードされている。よくまとまっていて、中々面白い。


 以前、国内で非営利組織の立ち上げ時のマーケティングとプログラム・マネジメントに関わったことがある(プログラムは複数のプロジェクトを束ねた概念)。マーケティングのほうの仕事は SlideShareに書かれている内容が凡そそれにあたる。非営利組織は、利益を第一の目標としていない。そのため、営利企業の仕事と違う筋肉をつかっているようなところがあるので、かなり勉強になった。また、金儲けを第一とする発想を時々こういった仕事で洗濯したほうが良いのだろう。逆説的だが、そのほうが営利の仕事をした時も短期的には「損して得取れ」長期的には「多くを得る」の発想を身につけることができる。

 さらに、小さい組織は大きな組織が10年かけて変化するところを1年や半年で変化が起こる。そのため、でスピードを上げて短期間に多くの仕事をしなくてはいけなかったが、大企業で10年かかるところを1年で学んでいるようなところがあった。その意味、スピードをあげながらもムリ・ムラ・ムダを積極的に取っていく『リーン・スタートアップ』を地でやっていたようなところがあった。

 さて、規模の大小にかかわらず、営利企業が戦略的に非営利組織を設立するということもあるだろう。例えば、営利企業の役員や社員が特に役人に会いにいくのは難しいところがあるが、これが町おこしを目的とした非営利組織の理事(兼務)となれば話は別になる。案外、知事や大臣クラスの人間も簡単に合ってくれる。

 悪巧みを推奨しているわけではないが、その非営利組織のミッションやビジョンを実現するという目的において、普段は組むのが難しいステークホルダーとの付き合いができるのも非営利組織ならではだ。その町おこしが達成される過程で、その営利企業が競争入札で、多少の受注をするはご愛嬌ということだろう。

 もっとも、こういう営業のやり方は、「製品を売ってお金」という短期的ではなく、もっと大きな風呂敷を広げてたたむような大きな絵を書く能力が必要になる。このあたりが営利企業での仕事との違いだろう。機会があれば、また、こういった仕事に従事したいとは思っている。

 余談だが日本は非営利組織に国の予算をつけるために、その組織に天下った官僚が色々動いているところがある。しかし、MRIについて考えると米国は日本とは違うのだろう。米国の非営利組織の場合はおおよそ私的寄付された(国の紐付きでない)大学の予算か、大手財団法人の予算をもらうというイメージだ。もちろん、個人や私企業から寄付もある。しかし、天下りが厳しくなると、日本でも何れ米国と同じように非営利組織もきちんとマーケティングやビジネス・ディベロプメントを行わないと組織が存続できない時代がやってくる、考えている。

   何れにしても、心理療法の研究機関についての考察からはじめてみたが、非営利組織のマーケティングというところに視点を当ててみるとかなり面白いことが分かる。

 
7月9日の進捗、1500ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 56.6%)


Volume IV
INOVATIVE HYPNOTHRAPY

Pseudo-Orientation in Time as a Hypnotherapeutic Procedure Milton H. Erickson Quoted from the Journal of Clinical and Experimental Hypnosis, 1954, 2, 261-283. Copyright by the Society for Clinical and Experimental Hypnosis, 1954.



お知らせ:

ミルトン・エリクソンの本質を突き詰めたから分かったことがあります。

 組織のパラドクスを解消し、組織の認識、行動の変化を支援する、
「変化・創発ファシリテーション」のオンデマンド、オンサイト講座を開始いたします。

詳細は、こちらから。


(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html


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